第六話 さらば第二の故郷
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っと背負い上げた時には前世では考えられない重量がのしかかるが今の俺には学生鞄程度の重量にしか感じない。
これで見納めになるであろう自分がおよそ八年間暮らしてきたこの場所を見て回る。いくつもの正の字が掘られた壁。いつ書いたか覚えていない自信に溢れている奇妙な日記。その日記も今思えば寂しさゆえに書いてしまったのだろう。人の触れ合いがないこの八年、娯楽という娯楽も食関連しかなかった。発狂しても可笑しくないこの八年間、俺は確かに生きるということに熱中した。
前世では何をやっても中途半端。少し興味が出たものでも長続きはしなかった。そんな今思えば怠惰な暮らしにつまらないと嘆いていた自分自身がつまらない人間だったのかもしれない。だがその自分はもういない。
初めてこの世界に来て生きるということがどれほど難しく困難なものかを学んだ。当時は生きることに無我夢中で気がつかなかったが今思えばあれが熱中と言えるのかもしれない。
そして出会ったトリコ世界の食材。初めて食べた時はあまりの美味しさに歓喜し、電流が駆け巡ったと思えるほど美味しいと思った……事実として本当に電流が流れていたわけだが。人からは教えてもらえないであろう大切なことを学び、経験できた。そして俺は今更ではあるが決意する。
――――美食屋になる、と。
現実を知らなかったあの時、美食屋になるのもいいかもしれないと白い部屋の男性に呟いていた頃とは違う。死闘の末に死が待ち構えていようともそれを覚悟し戦う。その強い意思はあの時微塵もなかった。死ぬとはどういうことなのか、殺すとはどういうことなのか。食すとはどういうことなのか。それを全く知らなかったあの頃。今思えば恥ずかしすぎて悶絶しそうだ。
「……決意を固めるための感傷に浸るのはもういいか。それはとっくの昔に出来てたしな」
お世話になった洞窟に一礼し俺はその場を後にした。
この無人島を脱出するために俺は海岸線まで歩き出す。途中見かけた葉巻樹にそう言えば風呂敷の中に葉巻を入れ忘れたと思いその場で木の枝を全て手刀で切り取り、さらには一本サイズに小分けにしていく。そしてリュックの方に動物の骨と皮で出来た専用の葉巻ケースに入れ、最後の一本は口に咥え電気で火を付ける。
「ふぅ〜、食後の一服はたまりませんな」
俺が初めて吸ったのは何時だっただろうか。毎日の死闘に精神的に擦り切れ限界を迎えようとしていた時に出会ったのは記憶している。口の中で香りと煙を味わうこの島で数少ない嗜好品。これと酒にどれだけ助けられたことか。煙草と違って肺には入れないということは前世の時、友人からマメ知識として教えてもらっていたため咳き込むという事態は避けられた。さんきゅー友よ。
そして今度は葉巻を咥えながらまたゆっくりと歩き出
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