第十三話 商人達の憂鬱
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易く落ちるとは……。ちょっと前までは想像もつかなかった……。
「何を考えているんです、船長」
マリネスクが俺をじっと見ている。いかんな、マリネスクは頼りになる事務長なんだが今一つ俺を信用していない。
「おいおい、そんな疑い深い目で俺を見るなよ。どっかに景気の良い話はないかと思ったんだ。金属ラジウムとかダイヤの原石とかな、今年のシンドバッド賞を取りたい、そう思ったって悪くはないだろう。トロフィーが欲しいじゃないか」
そう言って陽気にマリネスクの肩を叩くと呆れた様な顔をした。
「そんな景気の良い話を探してるんなら黒姫の所に行くんですね」
「辺境にか? 俺に海賊になれっていうのか、マリネスク」
マリネスクが肩を竦めた。
「別に辺境に行かなくても海賊にならなくても仕事は有りますよ、このフェザーンで」
「はあ?」
マリネスクが携帯用PCを操作し始めた。太い指を器用に動かす。そしてスクリーンを俺に見せ、指で示した。
「これです」
「……ハーマン輸送株式会社じゃないか」
「ええ」
ハーマン輸送と言えば……。
「経営状態良くないって聞いたがな、違ったか」
「それは去年の話です。……まあ船長はあの頃は不貞腐れて酒ばかり飲んでましたからね。気付かなかったんでしょう」
……そんな軽蔑する様な目で見なくても良いだろう。俺は船長なんだぞ、マリネスク。
ハーマン輸送株式会社は五十隻ほどの輸送船を保持する小規模の星間輸送会社だったはずだ。船を持たない船長と一年、或いは複数年の契約を結びハーマン輸送会社の所有する輸送船の運用を任せる。仕事自体はハーマン輸送株式会社が斡旋するか或いは船長自ら仕事を取ってくるか、その都度船長とハーマン輸送株式会社の間で調整する。フェザーンでは特に珍しくもないごくありふれた普通の星間輸送会社だ。
この手の輸送会社と契約するのは若い船長が多い。金もなければ経験もない、船を持てない船長だ。船を動かすクルーさえ輸送会社から紹介してもらう場合が有る。彼らは輸送会社の斡旋する仕事をこなす事で経験を積み仲間の信頼を得ていく。そうやって一人前の船長になるわけだ。ある程度の金が溜まったら船を買い自らの力で宇宙に出ていく。
輸送会社は船長に仕事を斡旋するのだから仕事を取って来るだけの力が要る。信用、交渉力、財力輸送会社、縁故……。ハーマン輸送会社は或る門閥貴族と密接に繋がっていた。その貴族の領地から産出される産物を一手に引き受け、同時にその領地に対して必要な物資を運んでいた。ハーマン輸送会社で扱う仕事の五割はそれだっただろう。ハーマン輸送会社は比較的安定した仕事を船長に提供できたわけだ。若い船長達にとっては安心できる輸送会社だったはずだ。
しかしフリードリヒ四世の死が全てを変えた。大規模な内乱が起きれば仕事
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