十二話 夢の終わるとき
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う。
「ああ……つい、魔が差しちまったんだよな」
「言い残すことがあるなら……聞いてやる」
最後の時が近づくのを感じ取ったシュウの言葉にアルバは噴き出すように笑うと、視線を外し、遠くを見るような目をして、かすれた声を出す。
「そうだな……お前には言ってなかったことがあるんだけどよ。俺って結構……往生際が悪いんだよな!」
言葉の最後、語気を荒げたアルバは左手で腰のポーチをさぐり、あるものを取り出した。それはピンクの色をした宝石、HPを瞬時に全快させる回復結晶だった。
「チッ!」
使用を許せば一瞬で形勢が変わってしまう。目の前に出して見せられたそれをシュウは即座に左の手で払いのけた。同時に拘束を逃れたアルバは後ろへ跳び、突撃槍の貫通状態が解除され胸に丸く刻まれたダメージエフェクトから漏れでるエフェクト光も収まる。
アルバは更にポーチから抜き出したスローイングナイフをシュウの背後へと投じる、青いライトエフェクトを纏いナイフが飛んだ先で、悲鳴のような馬の嘶きが上がった。シュウが顔を向けるとそこでは彼が騎乗してきた蒼い毛並みの馬が前脚を折るように倒れこんでいた、よく見れば右の前脚、膝から先が部位欠損状態に陥っている。
「悪いなシュウ、俺はまだ……終わりたくないんだよ」
言い捨てるなりアルバは身を翻して疾走を開始し、瞬く間に遠ざかっていく。敏捷型な彼だけにその速度はとてもシュウに追いつけるものではない。しかしシュウは遠ざかるアルバの背中を見つめながら、慌てるでもなく突撃槍を地に刺し、呟いた。
「ああ俺も、お前には言ってなかったことがあるんだよ、アルバ」
聞こえない距離で彼に向けた言葉を口にしたシュウは腕を振りメニューウィンドウを開くと、項目の一つ、スキルウィンドウに指を滑らせた。
夜空の下、草原フィールドを真っ直ぐにアルバは駆けていた。馬の足は封じた、そしてシュウは筋力型のプレイヤー、追いつかれる心配はない。十分に距離をとったなら転移結晶で逃げれば、いやその必要もないかもしれない。今シュウのカーソルはオレンジ。街に入ろうとすればNPCのガーディアンに襲われてしまう。フレンド追跡機能をオフにすれば後を追うことすらもできなくなるはずだ。
不様な真似をしているとは彼自身思っている。しかしそんな真似をしてでも生きたいと思えるほどに、この世界での生を手放すことは彼には耐え難いことだった。ただ一つだけ、心残りがあるとするなら、こんな汚い手段で逃げた自分を彼が見損ないはしないだろうか、ということだけだった。
一キロほども走ったところで後ろを振り返ったのは、そんな思いが後ろ髪を引いてのことだった。しかし、その先にあった光景に思わずアルバは足を止めてしまっ
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