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第八話 裏 (なのは担任、高町家)
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だから。
そして、さらに恐ろしいことにそれらが事実だったのが、また彼らを驚愕させた。
彼らの父―――士郎が強行突破でなのはの部屋に突入し、抱きしめたら泣いたというのだから。
彼らは妹の涙をその時、初めて見たといっても過言ではない。それほど、彼女が泣いた姿を見たことなかったのだから。
なにはともあれ、その時以来、彼女が部屋に引きこもることはなくなった。しかし、彼女に友達が出来ないという問題は解決していないように思える。
「俺も……何かいいアドバイスができればいいんだが」
恭也は己の口下手さと人生を半ば後悔した。
剣術にまい進する毎日。剣術に人生を捧げてきたといっても過言ではない。
それに、よくよく考えてみれば、自分も友人といえば、赤星勇吾と月村忍ぐらいしか思いつかない。
しかも、勇吾は剣術における強敵と書いて『とも』と読むような仲だし、忍にいたってはなぜ友人なのか分からない。気がついたらという形だった。話によると一年生の頃からクラスメイトだったらしいが、少なくとも恭也の記憶にはない。
「う〜ん、私もあんまり友達いないからなぁ」
美由希も恭也と同じだ。人生の殆どを剣術に費やし、友人という友人はいない。せいぜい、思いつくのは、神咲那美ぐらいだが、これは友人と呼んでいいのやら。ただの類ともと言ってもいいだろう。お互い核心は話していないが、そんな空気をしている。
彼らは、剣に人生を捧げてきた所為でなのはの友達がいなくて寂しいという気持ちも分からなければ、なのはに対する友達を作る際のアドバイスも出来なかった。
「俺たちは、なのはに降りかかる火の粉は払うことが出来る。どんな強大な敵からも護ると誓える」
「そうだね。御神の剣は護るための剣だもんね」
「だが、心は護れないとは……情けないことだ」
本当に不甲斐ない。護るとは、身体だけでは構成されないというのに。すべてを護ってこそ、御神の剣士。だが、恭也にはそれが出来そうになかった。家族の心も護れなくて、誰の心が護れるというのだろうか。
「それは、私も同じだよ、恭ちゃん。だから、せめて片方だけは絶対護れるように強くなろう」
ぐっ、と拳を握る美由希。それを珍しいものを見たように目を丸くして見つめる恭也。しばらく無言だったが、やがて恭也がくすっと笑い、口を開く。
「……まさか、美由希から諭される日が来ようとはな」
「もぉ〜、恭ちゃん!」
「冗談だ。それに美由希がいうことももっともだ。明日からも厳しくいくぞ」
「げぇ〜」
嫌そうに美由希が顔をしかめた後、堪えられなくなったのか、美由希が笑い始めた。それにつられた珍しく恭也も笑う。
それを夜空に浮かぶ三日月よりも少し太った月だけが見ていた。
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