無印編
第二十一話 裏 (すずか、アリサ、なのは)
[4/13]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
る。だが、退かない。退けない。すずかの中の想いは、そんなに容易く退けるほど軽いものではない。ずっと、心の中で求めてきた―――いや、すずかの一族なら誰でも求めている自分を受け入れてくる人なのだ。だからこそ、仲良くなりたい。もっと、もっと、もっと。だからこそ、この場で、退くことはできなかった。
やがて、視線を飛ばしあっていた二人だが、翔太もそれに気づいたのだろう。仲を取り持つように二人の間に入って、口を開いた。
「ふ、二人ともご飯を食べよう」
そう、それが目的だったのだ。相手が邪魔とはいえ、目的を忘れてしまっては本末転倒だ。だから、すずかは、そうだね、と相槌を打って、以前よりも少しだけ大きな弁当箱を開き、その中の一つである卵焼きをつまむと翔太の目の前に持っていった。
「はい、ショウくん、今日も作ってきたんだ」
すずかにとって一番最初に作れた料理であり、一番最初に翔太においしいといってもらえた思い出の料理だ。だからこそ、毎日、新作と一緒に必ず卵焼きを作ってきていた。いつもであれば、すずかの弁当箱の中から翔太の弁当箱の中に移すのだが、彼女がいる手前、対抗するように見せ付けるように、すずかはわざと自らの箸で卵焼きをつまみ、翔太の口へと持っていった。
突然のすずかの行動にさすがに面食らったのか、翔太はその場から動くことなく、呆然とした様子ですずかの箸につままれた卵焼きを見ていた。その表情が面白くて、すずかは卵焼きを押し付けることもなく、ただ翔太がそれを口にしてくれるのを待っていたのだが、それは彼女に隙を与えるだけに過ぎなかった。
すずかが弁当箱から卵焼きを取り出したのを見ると慌てた様子で、彼女も自分の弁当箱の中から卵焼きを取り出すとすずかと同じようにやはり卵焼きをつまみ、それを翔太に差し出していた。
「ショウくん、お母さんの卵焼き好きだったよね? はい」
自分と同じような行動。そんな彼女にすずかは真似するな、と鋭い視線を送るが、彼女はその視線を何所吹く風とあっさりと受け流し、まるで、すずかなどいないかのように自分の卵焼きを勧めていた。無視するな、とは思ったが、それで彼女に注意を向けていて翔太への注意が散漫となってしまっては意味がない。
それに、そもそも、そんなに慌てる必要はなかったのだ。すずかは彼女の手作りだが、彼女は彼女の母親の手作りなのだろう。自分よりも明らかに上の、すずかのメイドであるノエルやファリンよりもはるかにおいしそうなお弁当だったのだから。もしも、これが彼女お手製という考えは、信じたくなかったので選択肢から消した。
自らの手作りと母親のお弁当。力量の差は歴然としている。おいしい、おいしくない、という問題ではない。そこに篭った想いだ。
彼女のメイド曰く―――料理の最大の
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ