二匹の毒蛇
[30/32]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
奴が敗れるのははじめてのことだ」
彼は暗い部屋の中で呟いていた。
「ライダー、侮ることはできぬな。そして」
ここで顔を上げた。
「ダモンよ、貴様の仇は取る。安心して地獄に行くがいい」
その時心には憎しみはなかった。従兄弟への肉親としての気持ちだけがあった。
かって彼等は激しく憎み合った。それは今後のベトナムのあり方を巡ってであった。
中国との戦いに勝利したベトナムだったがその受けた傷は深かった。長い戦乱で疲弊しきっていたのだ。
これを見たガモンは今後は内政に力を注ぐべきだと考えていた。その為周辺各国とは融和的な政策を執るべきであると考えていたのだ。
だがダモンは違っていた。彼はまだ敵が来ると主張して軍備の充実、そして強硬策を主張した。これで両者の間に修復不可能な溝ができた。
どちらも心からベトナムを思っていた。それだけに譲らなかったのだ。何時しかその対立は軍部を大きく割る事態となった。
常勝将軍と天才軍師、どちらも力があった。そして従兄弟同士でもありその対立は日増しに強まっていった。
やがて彼等はミャンマーで極秘に作戦にあたることとなった。ここで彼等の仲違いが思わぬ悲劇を招いた。
それにより作戦に大きな支障をきたしているところを敵に襲われた。ガモンは戦死し、ダモンは行方不明となった。
ベトナムは陰の勝利とひきかえに二人の有能な軍人を失ったのだ。
だがダモンは生きていた。川に落ちながらも何とか生きていた。そして鰐の牙をかいくぐり出て来たところをショッカーにスカウトされたのだ。祖国では既に彼は死んでいるということになっているということを教えて。
こうして彼はショッカーの地獄大使となった。彼はガモンのことは忘れてはいなかった。だが最早彼もダモンではなくそれに固執することもなかった。やはり彼は以前の彼ではなくなていたからだ。
ガモンは墓で眠っていた。ベトナム軍の将兵達が作った墓であった。密林の奥でありとても祖国まで持ち帰ることが出来なかったのだ。
こうして彼はバダンにより甦らされるまでそこで眠っていた。長い眠りであった。
「眠りから醒めるとこの身体になっているとはな」
やはり彼も帰るべき祖国はなかった。死んでいる身で帰っても場所は何処にもないからだ。
彼は暗闇大使となった。それが今の彼であった。
「ダモンよ」
彼は従兄弟の名を呟いた。
「今ここにいるのだろう」
席を立った。そして棚から酒と杯を二つ出した。
「共に飲もうぞ。ベトナムの酒だ」
ベトナムの酒は案外強い。熱い国であるがその気候によく合っている。甘く一度好きになると病みつきになる。
彼は二つの杯にその酒を入れた。そしてそのうちの一つを手にとった。
「乾杯だ、貴様の戦いに」
そして飲み干した。見ればもう一つの
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ