萌芽時代プロローグ
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向かい合う壮年の男性と、未だ幼い子供。
板張りの床に座している神妙な様子の男性と子供を中心にして、数名の大人達が二人の様子を見守っていた。
「お主は本日より数えで七つ。我が一族では仕来りにより、七歳を過ぎて初めて名を与える事を知っておるな?」
「はい」
男性が厳めしいが、慈愛の滲んだ声で子供に声をかける。
床の上に正座していた子供が、声をかけられ、凛然と返事をした。
「良い返事だ。今日を持って、お主も一族の正式な一員として認められる事となった。父よりお主に授ける名だ。――受け取るが良い」
「はい、父上。感謝致します」
小さな手が、男性から渡された巻物を慎重に受け取る。
鮮やかな明け色の紐を躊躇いなく解き、子供はゆっくりとした手つきで巻物を広げる。
渋い色合いの和紙に、黒々とした墨で記された文字。
男性的な勇壮かつ雄大な勢いで記された漢字二文字を見つめて、子供は初めて眉根を寄せた。
「――……父上」
「なんだ」
「これはなんと読むのですか?」
困った様に眉根を寄せながら見つめてくる子供に、男性はふ、と頬を緩める。
そうしてから、よく響く朗々とした声で宣言した。
「柱に間、と書いて“柱間”と読む。今日よりお主の名は柱間である。誉れある千手一族の一員として、日夜修行を怠る事なく、精進に励めよ」
何処か嬉しそうな男性に答える事なく、子供はただ呆然と己の名が記された巻物に視線を落としていた。
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