暁 〜小説投稿サイト〜
木の葉芽吹きて大樹為す
萌芽時代プロローグ

前書き [1]後書き [2]次話
 向かい合う壮年の男性と、未だ幼い子供。
 板張りの床に座している神妙な様子の男性と子供を中心にして、数名の大人達が二人の様子を見守っていた。

「お主は本日より数えで七つ。我が一族では仕来りにより、七歳を過ぎて初めて名を与える事を知っておるな?」
「はい」

 男性が厳めしいが、慈愛の滲んだ声で子供に声をかける。
 床の上に正座していた子供が、声をかけられ、凛然と返事をした。

「良い返事だ。今日を持って、お主も一族の正式な一員として認められる事となった。父よりお主に授ける名だ。――受け取るが良い」
「はい、父上。感謝致します」

 小さな手が、男性から渡された巻物を慎重に受け取る。
 鮮やかな明け色の紐を躊躇いなく解き、子供はゆっくりとした手つきで巻物を広げる。
 渋い色合いの和紙に、黒々とした墨で記された文字。
 男性的な勇壮かつ雄大な勢いで記された漢字二文字を見つめて、子供は初めて眉根を寄せた。

「――……父上」
「なんだ」
「これはなんと読むのですか?」

 困った様に眉根を寄せながら見つめてくる子供に、男性はふ、と頬を緩める。
 そうしてから、よく響く朗々とした声で宣言した。

「柱に間、と書いて“柱間”と読む。今日よりお主の名は柱間である。誉れある千手一族の一員として、日夜修行を怠る事なく、精進に励めよ」

 何処か嬉しそうな男性に答える事なく、子供はただ呆然と己の名が記された巻物に視線を落としていた。

前書き [1]後書き [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ