第五話
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して各戦線で活躍していた。
数多くの戦場で戦果を残し名を馳せた一流パイロットであり、ボルゾルイ星系防衛戦において激戦の中、母艦に帰還して補給する間の無く、3度機体を乗り捨てては3度予備機に乗り換え、休むことなく戦い続け、231機の撃墜数を叩き出し英雄と称えられた。その後『ボルゾルイの雷光』と二つ名を名乗ってみるも誰にもそう呼んでもらえなかったのはともかくとして、シルバ族でも有数のパイロットであると自負していた。そしてそれは現在でも変わっていないつもりだ。
その自分をして嫉妬を覚えさせるほどの才能。トリマ家の嫡子としての息子の将来に対して期待を抱いて良いはずなのに、その大きすぎる才能がもたらす先に一抹の不安を拭い去ることが出来ない。
「お父さん。この機体凄いよ!」
興奮気味のエルシャンの声に我に返る。どう考えても凄いのは君の操縦だよと言いたいのを堪えつつも「大分慣れたみたいだね、エルシャンは飲み込みが早いな」と返事を返すと、更にポアーチを驚かす言葉が返ってきた。
「うん、やっと感覚がつかめてきたから、今度は思いっきりやってみても良い?」
「…………はい?」
ポアーチは空いた口がふさがらないままに『エルシャンに負けないよう特訓しよう。いや猛特訓しよう。そうしよう』と決意した。
本気で機体を操り始めてすぐにエルシャンは違和感を覚える。そして自分の思うイメージから外れる機体の動きに次第に苛立ちを覚えはじめた。
機体に問題は無い。搭載された2発の重力波エンジンが生み出す機動力は、前世で遊んだフライトシミュレーター系のゲームの実際の戦闘機を『ある程度』イメージした動きどころか、舞台が未来宇宙のSFモノのゲームでも見たことがないくらいに操縦桿の動きに鋭く、そして素早く反応する。
擬体の同調のレスポンスにも問題は無い。むしろ肉体の神経伝達を介さない分だけ──神経の伝達速度は秒速数十m程度に過ぎず、脳から直接命令を読み取る同調装置。そして伝導率の高い金属製の神経を張り巡らし、生体の筋肉以上の反応速度を持つ擬体には勝てない──エルシャンが自分の身体で実際に乗り込んで操縦するよりも早い反応が出来る。
すると残された原因は一つ、エルシャン本人。
今までの日常生活の中で時折感じていた違和感。身体はまだ子供なので運動神経が鈍いのは仕方ないと納得してきた彼だが、実際にシミュレーターに乗って初めて、今のエルシャンとしての身体は、田沢真治の身体の頃よりも反射神経が鈍いと気付く、犬っぽいくせに霊長類ヒト科よりも鈍い判断せざるを得なかった。
前世の記憶の中の自分が行う一瞬の判断速度に比べると全ての判断がワンテンポ遅れる。そのラグタイムが苛立ちを蓄積して行き、それが焦りへと変わる。
「もしかして俺は才能がないのか?」
小さく漏らした呟
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