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生滅の一本
一話目
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でに宝物庫から少々国家予算を頂戴してきた。城のテラスに出た俺はその光景をみて嗤いがこみ上げてきた。曇天の空の下で数万の軍勢に囲まれた城だ。つまりあれだ……この城の奴らは負ける寸前で勇者を召喚したのだ。
一つ勘違いをされるが勇者は最初弱い。一般兵以下だ。ただ成長限界と速度が異常なだけだ。召喚されて次の日に死ぬこともあるらしい。
まったく俺以外なら終わっていた。まぁ、俺のせいで城の奴らの人生も終わったがな。

「ふぅ……仕方ないな」

俺は城のテラスから飛び降りた。勿論自殺ではない。バケモノはこの程度ではダメージすら入らない。上にきたジャケットがはためき、堅い石畳に着地した俺は門に向かって歩みを進めた。

※ ※ ※

男は門に向かって歩いていた。そして門まであと五十メートルほどの距離に着いたとき唐突に跳んだ。
男の大きな跳躍から繰り出されたしなやかな蹴足がぶつかる。柔らかい蹴りにも関わらずその一撃は破城槌のように轟音と共に門を吹き飛ばした。まるで木葉のように吹き飛ぶ門。そして吹き飛んだ門を見た兵士達に同様が走る。

「敵対の意志はない。中に要人もいるだろう捕らえるといい」

男はゆっくりと兵の中を闊歩し始める。そんな男に困惑し対応が出来ない兵士達。だが一人の青髪の若い女が男の目の前に出てくる。

「私の名はアメリア。総司令をしているアメリア=ファベリアだ!貴公の名を問おう」

男は少し上を向いて考える。どうやら返答に困っているようだ。

「名前……か。残念ながら名前は……んっ?」

男の顔に水がぶつかる。先程までの曇天の空が遂に雨を降らし始めたようだ。男は少し笑い。

「そうだな俺はレイン……。レインだ」

レインと名乗った男は女、もといアメリアの問いに答えた。

「そうか……レイン殿!同行を願えるだろうか?詳しい事情を聞きたい」

レインはアメリアを眺めると

「構わない、同行しよう」

と答えた。

その後アメリアの命令の下、城を占拠した兵士達は勝利に酔い酒に酔い、朝まで騒いだ。

そんな中レインと名乗った男は独り城の城壁の端に座っていた。

「…………やはり人間は温かいな。そしてまた醜い。そんな俺が一番醜い存在……か」

独り夜空を見上げながら小さく呟く。遠くから宴会の喧噪が聞こえ、それが嫌でも人を感じさせる。レインは目をつぶり、ずっとその音を聴いていた。

※ ※ ※

寝ていると近づいてくる者が居る。俺はとっさに肩に立てかけてある槍を掴みそれを喉笛に突きつけた。

「誰だ……」

小さくそして低く敵に聞く。

「ええっと……私だレイン殿」

声を聞いてはっと思い出す。急いで槍を肩の位置に戻す。

「アメリアか、済まない気配には敏感でな」

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