無印編
第十七話 裏 (すずか、なのは、忍)
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た。
椅子と共に倒れこみ、首筋からまだ染み出すように血を流す翔太の姿。
何が恐怖でもいいから忘れないようにする、だ。そんなことは意味がない。すずかが望んだのはただ忘れてもらわないというだけではなく、今日という日々の継続だったのに。それだけを望んでいたのに。それを自分で粉々にしてしまった。もしかしたら、回避できたかもしれない未来を自分で作ってしまった。
すずかの頭の中は混乱しており、現状把握だけで一杯一杯だった。だが、夜の一族として吸血行為は当然のことで、それが原因だろうか、一部冷えたように冷静だった部分がすずかに次の行動を取らせていた。混乱する頭で身体を必死に動かして、翔太を椅子に座りなおさせ、机にうつ伏せの状態にし、人差し指からまだ血が流れているのを見て自分のポケットにあった絆創膏を張っておいた。これで、翔太が夢だったと思ってくれればいいのに、と甘い幻想を抱くが、冷静な部分がそれを即座に否定する。
とりあえずの片づけを混乱する頭で行ったすずかは、今すぐにでもこの場を離れたかった。自分が犯した罪から逃げるために。どちらにしてもこんなことになった以上、姉に言わなければならないと思いながら。携帯電話を使えばいいのだろうが、今のすずかはそんなことに気を使う余裕もなく、お稽古のために待ってもらっているノエルの元へと駆けるのだった。
◇ ◇ ◇
妹のすずかからありえない報告を聞いた月村忍はため息をはきながらソファーに沈み込んだ。
どうしよう、どうしよう、と動揺しているすずかに対しては部屋に戻っておくように言った。あのままでは、何をするか分からない上にいたとしても邪魔になるからだ。
すずかが忌み嫌っている吸血という行為に陥った理由を忍は考えていた。思いついたのは主に三つだ。
一つは、すずかの精神状態だ。昨日の翔太に関すること。今朝は忍を避けるように学校に出たからよく分からないが、それでも友人を失いそうになった恐怖に不安定だったことは容易に想像できた。
一つは、時期が悪かった。よくよくカレンダーを見てみると今日は吸血の日だ。吸血と言っても街中に出て人を襲うわけではない。輸血用の吸血パックからストローを刺して飲むのだ。つまり、先ほどまでは吸血が不足していたといっていい状態なのだ。吸血は夜の一族にとって吸血は人間の三大欲求―――睡眠欲、食欲、性欲―――に匹敵するほど耐え難いものである。叔母のさくらは一時期吸血を拒否しても生きられたが、それは人狼族の血が入っているからだ。忍やすずかがまねすれば、一ヶ月もしないうちに吸血事件として海鳴の街を騒がせるだろう。
最後の一つは、時間帯だ。一時間ほど前といえば、ちょうど日の入り手前であり、逢う魔が時である。昼と夜の境目であり、精神的な不安
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