無印編
第十七話
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ない。
「それじゃ、また明日」
僕が背を向けて部屋の前から立ち去ろうとしたとき、制止の声はドアの向こう側から聞こえてきた。
「待ってっ!」
その声は、すずかちゃんの声に他ならず、僕は足を止めてドアに向き合う。
「ショウくんは、私が怖くないの?」
半ば震えるような声で、恐怖と不安に彩られた声色で恐る恐るといった様子ですずかちゃんが尋ねてくる。だから、僕はその恐れを断ち切るように間髪入れずに答えた。
「怖くないよ」
すずかちゃんの心理は大体理解できた。彼女は、吸血鬼―――というよりも他人と違うことにコンプレックスに思っているのだろう。身体的な特徴ではない。ある種の体質に近いコンプレックス。治す事のできないコンプレックス。だからこそ、それを知られたとき、僕から逃げた。傷の手当はしてくれたみたいだけど。
ここで僕が拒絶したなら、彼女に一生もののトラウマを刻んでしまうところだったかもしれない。
それに、先ほどの言葉は嘘ではない。驚きはしたが、すずかちゃんのことが怖いとは思わない。
「どうして?」
実に不思議がった声色の疑問。おそらく、すずかちゃんはずっと正体が知られたら拒絶されると思い込んでいたのだろう。もっとも、ホラーなどに出てくる吸血鬼はすべからく嫌われるし、畏怖の対象として書かれるのだから、仕方ないといえば仕方ないのかもしれない。
僕は彼女の質問に答えるために礼儀としては誤っていると知りながら質問で返した。
「すずかちゃんは、その力で僕を無理矢理襲うの?」
「そんなことしないよっ!!」
ドアの向こうから聞こえる間髪入れない否定の声。
「だからだよ。すずかちゃんとはもう2年の付き合いだよ。そんなことは知ってる。だから、僕はすずかちゃんが怖くない」
小学生のときの同級生が高校生で再会したときに不良だったとして、小学生のときの記憶のまま話しかけてきたなら、その同級生を怖いと思うだろうか。怖いという感情は浮かばないだろう。彼が自分にはそんなことをしないと分かっているから。僕も同じ理由だ。
それに―――と僕は続けた。
「すずかちゃんに秘密があるように僕にも秘密があるんだ」
もったいぶるように数泊おいて、僕はすずかちゃんに自分の秘密ともいえない秘密を告げた。
「実は、僕は魔法使いなんだ」
ドアの向こうですずかちゃんが息を呑むのが聞こえた。うそ、という信じられない呟きも。
「もっとも、まだまだ卵だけどね」
茶化すように言う。これで、少しでもすずかちゃんの気持ちが明るくなってくれれば儲けものなのだが。
「そうなんだ、それじゃ、今度魔法見せてね」
「簡単な魔法しか見せられないけどね」
僕の
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