フェアリィ・ダンス編
第57話 =現実で待っていたもの=
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ほどまで彰三さんのいたアスナの枕元へ回り込むとその栗色の髪をおもむろに1房つかみ、音を立てて擦り合わせる。今までの好印象は全て消え去っておりこの男に対してはこんな気持ちしか生まれてこなかった。それは……気持ちわる…!と、いう気持ちだ。
「君はあのゲームの中で、明日奈と一緒に暮らしていたんだって?」
顔を伏せたままその須郷は言った。
「……えぇ」
「それなら、僕と君はやや複雑な関係ということになるのかな」
その須郷はニタリと笑い和人に眼を合わせていた。横からでも見えるその細い眼からはやや小さい瞳孔が三白眼気味に覗いており、その表情は酷薄という言葉以外当てはまるものが無かった。愉快にその顔を崩さずに笑いながらさらに言葉を続ける。
「さっきの話はねぇ……僕と明日奈が結婚するという話だよ」
俺はこのとき久しぶりに自分の発想力が成長したことを後悔した。先ほどのいい人ぶった須郷の口から出た「ドレスを着せてあげたい」という言葉はやはり婚約を意味してたのか…。
「そんなこと……できるわけが……」
「確かに、この状態では意思確認が取れないゆえに法的な入籍は出来ないがね。書類上は僕が結城家の養子に入ることになる。…実のところ、この娘…いや結城家の子供たちには昔から嫌われていてね」
そういいながら、須郷は眠っているアスナの頬に手を這わせようとしていた。
「じゃあアンタは、意思表示が出来ない今の時期を利用しようってのか?」
だが、今のアスナに触れていいのは血の繋がった小父さんと京子小母さんくらいだ。そう思った俺はその手の動きを止めるためにアスナの顔から遠ざけるように引き離した。すると利き腕ではない左でそれを阻止したので俺の手は振り払われてしまい、さらに口を開く。
「利用?いいや、正当な権利だよ。ねぇお二人とも…。SAOを開発した《アーガス》がその後どうなったか知っているかい?」
「……」
そこら辺の情報に疎い俺は目線でキリトにその質問を投げた。
「…解散したと聞いた」
「正解だよ、英雄君。開発費に加えて事件の保障で莫大な負債を抱えて、SAOサーバーの維持を委託されたのがレクトのフルダイブ技術専門部門さ。具体的に言えば…」
僕の部署だよ…とデモニッシュな微笑を顔に貼り付けたまま俺と和人の両方を見てくる。
「つまり、明日奈の命はこの僕が維持しているといってもいい。なら、わずかばかりの対価を要求したっていいじゃないか?」
この男はSAOで囚われたアスナを自身の目的のためだけに利用するだけなのだ。…いわゆる生粋の悪者、という感想しか持てなかった。権力で自分のほしい物を好きなように手に入れようとする者…。弱肉強食が基本の向こうの世界ではなかなか見なかった希少な例だった。
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