無印編
第十五話 裏 前 (なのは、忍、すずか)
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黒なワンピースは目を引いた。むろん、それはアリサとて例外ではない。
しまった、と思っても後の祭りだった。先週、一ヶ月は高町なのはの探し物に付き合うといった翔太だったが、もしかしたら、休日ならば空いているかもしれない、という思いからお茶会に誘ったときに翔太が来られるならば、着ようと思って掛けておいたのをそのままにしていたのだ。
「すずか〜、この洋服どうしたの?」
むろん、買ったのだが、それがアリサの求める答えとは思えない。すずかの私服は確かに白を基調にしたものが多い。その中でどうして、黒いワンピースを買ったのか、という問いに対する答えがアリサが求める答えだろう。
だが、その理由をすずかの口から言えるはずもない。まさか、翔太に洋服を褒められたアリサが羨ましくて、つい買っちゃった、などと。
「えっと〜」
視線を宙に泳がせて、すずかは必死に答えを探す。しかし、そう簡単に答えが見つかるはずもない。結局、すずかの口から出てきたのは、適当にお茶を濁すような言い訳に近いレベルの回答だった。
「な、なんとなく? たまには気分を変えても良いかな、って思って」
自分で言いながら、苦しい、苦しいと思っていた。だが、アリサは、あまり理由には興味がなかったようで、ふぅ〜んと呟いただけで、すずかの苦しい言い分には突っ込んでこなかった。黒いフリル付きのワンピースをまじまじと見ていたアリサだったが、不意にすずかに視線を向けて口を開く。
「あたし、これを着たすずかが見てみたいな」
「え?」
予想外の展開だった。しかし、拒否して先ほどと似たような質問をされるのも拙い。それならば、この場でその洋服を着ることを選ぶ。なにより、すずかもアリサの意見は貴重なものだった。自分以外だと姉の忍にしか評価してもらっていないのだから。普段、着慣れている洋服以外の洋服を着るのは、それなりの勇気が必要だ。
だが、第三者の太鼓判さえ、あればそれなりに安心できる。だから、翔太に見せる前の前哨戦だと思い、すずかはアリサの前でその黒いワンピースに着替えることにした。
女の子同士であるわけで、特にアリサに外に出てもらうこともなく、すずかは黒いワンピースに袖を通した。さすがに恥ずかしいのでアリサには後ろを向いてもらっていたが。もっとも、アリサはそれが気に入らないらしく不満げに頬を膨らませていた。
「い、いいよ」
すずかの声でアリサが振り返る。すずかの洋服を着た姿を見てアリサが満面の笑みに変わる。
「わぁ〜、洋服を見たときから似合うと思ってたけど、想像以上に似合ってるわねっ! 可愛いわよ」
「ありがとう」
ここまで手放しに褒められては、女の子で親友であるアリサが相手といえども多少気恥ずかしかった。
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