「神」のみぞ知るセカイ
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「検査入院、か」
ふと呟いた言葉は虚空に消えた。
他に誰もいない広い病室。VIP待遇なこの部屋の中で鳴海歩はふと呟いた。
あの戦いが終わって暫く。一度倒れた。クローンとしての欠陥が出始めたのだ。
状態を知るためという今回の検査入院。検査が終われば直ぐにでも退院できると言われたがきっとまた直ぐに倒れるだろう。そしてここでの生活が始まるというわけだ。
白で埋められた清楚な部屋を見て歩は思う。自分はかつての役目を果たした。次の状態に移った。だからまだ死ぬわけには行かない。あと数年は生きられるだろう。だがその後は? 決められた未来を思い、けれど静かな安息を感じ歩は苦笑する。
悔いはある。あのバカとはあれっきり。会ったら笑って嫌味ごとでも言ってやろうかと思っているのに消息がとんとつかめない。
生きること。それが歩に課せられた役目。それを全うする為に足掻かなければならない。
歩は希望を示すと約束したのだから。
手持ち無沙汰でピアノの楽譜を書く。歩の趣味だ。
そう言えばあの少女に弾いて欲しいと言われていたことを思い出す。あの学校で、カノン・ヒルベルトとの戦場で弾いたがあの少女個人の為に弾いいたことは結局一度もない。火澄との学校生活の中、他の人の為には弾いいたというのに。ついおかしくて小さく笑う。
そんなことを思いながら手を進めていると病室の扉が開き看護婦が入ってくる。
「成海様、配達物が届いています」
「ああ、済まない」
看護婦が出て行ったのを見て届けられた手紙の差出人たちを眺める。
知り合ったブレードチルドレン達からたまにこうやって手紙が届く。生きて運命に抗う歩に自分たちも頑張っていると、抗って生きているのだと知らせるように。
「爆裂ロリータ、か」
差出人の名を見て呟く。嫌がっていたハズなのに調子のいいことだ。こんな物騒な名前なのに配達員は気にしないのだろうかと歩は思う。
手紙の束を探り、ある一つのそれに歩の手が止まる。
というよりはその差出人に。
「地獄より、ね。また物騒だな全く」
誰だか見当もつかないがこいつらは本名を書くという習慣がないのだろうか?
そう思いながら歩はその手紙の封を切る。
「何々……『この度は神と呼ばれるあなた様の力を借りたくこのように手紙を送らせていただきました。あなた様の力を見込んで私どもの手助けをしていただきたく存じます。どうか力を貸していただけないでしょうか神様。駆け魂隊室長;ドクロウ』」
全く知らない名前だが不思議ではない。世界に散らばるブレードチルドレン。その全ての名前をまだ把握しているわけでもない。
何より相手は歩のことを神だと知っている。そのことを知っているのは兄貴の関係者か、ブレードチルドレンかのどちらか。
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