第十一話 ヴァンフリート割譲条約
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が笑った。
「オーディンから運ぶより早いのさ、近いからな。その分だけ値段も安い。兵站統括部も積極的に辺境を利用しようとしている。辺境は最前線であるイゼルローン要塞にとって重要な補給基地になりつつあるんだ」
「……」
ケスラー提督が私の顔を覗き込んだ。彼の顔には笑みが有る。
「分かるだろう。いずれ帝国軍はイゼルローン要塞から反乱軍領域へ攻め込む。一年後か二年後か……。その時、辺境星域は、黒姫一家は、後方支援の重要な担い手になるはずだ」
「なるほど……、しかし辺境にそんな産業基盤が有るとは思わなかったが」
辺境と言えば農業、水産業が主体ではなかったか……、しかも生産量は低かったはずだ。昔子供の頃学校でそう教わった記憶が有るが……。
「ここ近年、辺境はかなりの勢いで発展している。黒姫一家が大規模に投資しているからな」
「それは聞いているが……」
「連中が投資しているのは宇宙港の整備や発電所、それに道路、上下水道の整備、主としてインフラ整備だな。それをみて中央からも企業が進出している。イゼルローンに軍用品を収めているのもそれさ」
「辺境は辺境で無くなりつつあるか……」
ケスラー提督が頷いた。
「イゼルローン要塞がヤン・ウェンリーに落とされた時、企業の進出が止まったらしい。しかしイゼルローン要塞を奪回して以来、企業の進出がまた増えているそうだ」
「……まさかとは思うが、奴がイゼルローン要塞を落したのは……」
「そのまさかだと私は思っている。辺境の発展のためには辺境の安定が必要だった。イゼルローン要塞が帝国に有る事が必要だと黒姫は判断した……」
部屋に沈黙が落ちた。先程までケスラー提督は笑みを浮かべていたが今は無い。重苦しい沈黙を振り払うかのようにワインを一口飲んだ。
「信じられない男だな」
「黒姫にとっては身代金などどうでも良かったのだと思う。辺境が安定する事、それにより辺境が発展する事が大事だった。辺境が発展しなければ黒姫一家も大きくはなれないからな……。反乱軍との交易を望んだのもおそらくはそれが理由だ。彼にとっては身代金より交易の方が辺境の発展に役立つと見たのだ」
「……」
ケスラー提督がワインを口に運んだ。少し考えるようなそぶりをしている。
「将来的には辺境星域と反乱軍領域を結んで一つの経済圏を作ろうとしているんじゃないか、私はそんな推測をしている。向こうの人間も似た様な事を考えているかもしれない。自由惑星同盟はもう長くない。そして帝国辺境と言う新しい市場が見つかった。イゼルローン回廊を解放してくれるならそれも悪くないと……」
とんでもない男だ、私が考え込んでいるとケスラー提督がグラスにワインを注いでくれた。
「辺境はこんな感じだ。とんでもない男を相手にしているが敵ではなく味方に付ければ
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