第九話 オーベルシュタイン
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らなかったようだな。となるとやっぱり金髪か総参謀長のどちらかだよな。しかし妙な野郎だよ、半死人の総参謀長は。表情なんて欠片も動かさねえ。周囲が皆奴の事を見てるのに何の反応も示さない……。
「……オーベルシュタインだ。私は迷っていた、まさかブラウンシュバイク公が攻撃時間を早めようとは……」
少し言い訳がましいが嘘じゃねえんだろう。実際どんな判断をしたかは分からねえけどな。見殺しにしたか、止めたか……。
「誰かがブラウンシュバイク公に通報したんでしょうね。閣下が軍をヴェスターラントに派遣するかもしれないと。或いは攻撃時刻を敢えて偽って閣下に報告したか……」
金髪が呻いている。いや呻いているのは金髪だけじゃない。皆呻いている、俺もだ。酷い話だ、上の人間を欺いて二百万人見殺しかよ。人間のする事じゃねえな。反吐が出るぜ。
「何故そうする必要が有ったか、もうお分かりでしょう。辺境の時と同じですよ。閣下を貶めるためです。失脚させる名目になる、ヴェスターラントの二百万人を見殺しにしたと……」
「……そうなのか、オーベルシュタイン」
押し殺した声だ、金髪が半死人の総参謀長を睨んでいる。野郎の腹の中は煮え繰り返っているだろう。だけど半死人は何の変化も示さなかった。
「私がリヒテンラーデ公のスパイだという証拠は有るのか、黒姫」
抑揚の無い声だ。前にも聞いたけどスゲエ嫌な気分になる。こんな時にこんな声を出すなんて一種の化け物だな。
「有りませんね。しかし貴方がリヒテンラーデ公のスパイではないという証拠は有りますか」
「……」
「お互いに証拠はない。そして状況証拠なら貴方は黒だ」
親っさんも半死人も互いに見詰め合ったまま視線を逸らさねえ。睨んでいるんじゃねえ、ただ相手を静かに見ている。そして周りの連中は皆沈黙している、金髪もだ……。声なんてかけられる雰囲気じゃねえ。睨みあってるなら“止めろ”って言えるさ。でもな、ただ静かに見ているんだ、静かなのにスゲエ空気が重い、胃が痛くなる。何時まで続くんだろう、少なくても三分は経ったはずだ、そう思った時だった。
「後はローエングラム侯にお任せします。総参謀長はスパイかもしれないし違うかもしれない。しかしどちらにしても彼は危険だ。閣下のお立場を悪くすることしかしていない」
ホッとしたよ、皆に分からねえように大きく息を吐いた。俺以外にも同じ事をした奴は居るだろうな。
皆が金髪を見ている。どういう判断をするかってところだな。上に立つ奴はいつもこうやって試されてる。楽じゃねえよな。
「オーベルシュタイン、何か言いたい事は有るか」
「有りません」
「……卿の身柄を拘束する。卿に疑いが有る以上それを放置する事は出来ぬ、詮議の場にて自らの無実を証明するが
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