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銀河英雄伝説〜その海賊は銀河を駆け抜ける
第六話 キフォイザー星域の会戦(前篇)
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帝国暦 488年 5月 10日      キルヒアイス艦隊旗艦  バルバロッサ  ジークフリート・キルヒアイス



「黒姫一家のヴァレンシュタインより訪艦の希望が来ております。今後の事で相談したいと……」
ビューロー准将の言葉に思わず表情が動きそうになって慌てて堪えた。もっとも准将もそしてそれを聞いているベルゲングリューン准将も表情は決して好意的なものでは無い。

「出来ればルッツ、ワーレン両提督ともお会いしたいと……」
溜息が出た。そんな私を二人の准将が気の毒そうな表情で見ている。相談など必要無いと断ることもできるだろう。しかし相手は我々の補給を支援してくれる組織なのだ。良好な関係を築く事は今回の軍事活動において必要不可欠と言って良い。補給の出来ない軍隊がどうなるかは昨年のアムリッツアで反乱軍が示している。

「来艦を歓迎すると伝えてください。それとルッツ、ワーレン両提督に来艦要請を」
「はっ」
人間、最低限の社交辞令は必要だ。どんなに嫌な相手でもにこやかに応対しなければならない時が有る。ましてそれが役に立つ人間ならなおさらだ……、溜息が出た。

ルッツ、ワーレン両提督に黒姫が来る事を伝えると二人とも微妙な表情をした。提督達にとっても黒姫は何とも言い難い存在なのだ。前回の戦いではラインハルト様より武勲第一位と評価されている。彼の実力は認めるが軍人としてそれを受け入れるのはなかなか難しいだろう。

黒姫……、黒い姫。海賊達が彼に付けた名だ。黒は悪、強さを表し姫は女性を表す。強く悪い女性……、魔性、最悪の存在だろう。荒くれ者、乱暴者の多い海賊社会で黒姫は一目も二目も置かれる存在だ。そして狡猾なフェザーン商人でさえ彼を怖れている。昨年のカストロプ動乱ではフェザーン商人を蒼褪めさせるほどの荒稼ぎをした。

黒姫が来たのはルッツ、ワーレン両提督が来てから更に十分ほど経ってからだった。一人では無かった、部下を一人連れ更に軍人を二人連れている。見覚えがある、あの二人は……、また溜息が出そうになった。どうやらまたもしてやられたらしい。

「久しぶりですね、キルヒアイス提督。前回お会いしてから半年以上が経ちました、早いものです」
黒姫がにこやかな笑みを浮かべている。華奢で小柄な身体、にこやかな笑み、とても海賊には、黒姫と異名をとる男には見えない。だが騙されてはいけない、この笑みは相手を油断させるための擬態なのだ。この男の本質は血に飢えたサメだ。貪欲で獰猛で狡猾、一旦獲物に喰いつけばその鋭い歯で情け容赦なく喰いちぎる……。

「久しぶりです、黒姫の頭領」
どうせならずっと会いたくなかった……。
「今日は元帥閣下に御味方したいという二人を御連れしました。キルヒアイス提督は既に面識が御有りですよね、
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