無印編
第十二話
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「先生、これ、ここに置きますよ」
学年が上がると変わることがある。だが、同時に変わることがないこともあるのが事実だ。
こうして、担任の代わりに小テストや宿題を持ってくることは三年目になった今でも変わらない。
「おお、蔵元。いつもありがとな」
よほど忙しいのだろう。僕に目を向けることなく、カリカリカリと書類を書き続ける先生。もっとも、新学期が始まったばかりのこの時期に忙しくない先生などいるはずがないのだが。
「そう思っているなら、僕にも何かくださいよ」
「なに、お前の内申書はいつも美辞麗句で埋まってるぞ」
「いや、ダメじゃないですか」
ははは、と笑う先生。
いつものようなやり取りだった。定型文的なやり取り。だから、僕ははいはい、と言って職員室をそのまま出て行く予定だった。だが、背中を向ける直前、書類に目を落としていた顔を突然何かを思い出しように上げてた。
「ああ、そうだ、蔵元」
くるっ、と椅子を回して僕の背中に声を掛ける先生。僕は、また何か雑用があるのか、と半ば呆れ顔でまた振り返り、先生と真正面から向き合う形となる。
僕の予想はある意味で当たっていた。下らない、という部分に対しては。
「お前に春が来たって噂なんだが、本当か?」
「はぁ、春なら今の季節は確かに春ですが」
僕は先生の言っている意味が分からなかった。そのニヤニヤとまるで初々しいものでも見るような表情もその言葉の意味もすべてが。
とりあえず、言葉の意味のままにとってみたが、先生は額を押さえて参った、というような仕草を取って見せた。
はて、僕は何か間違ったことをやってしまっただろうか。
「おいおい、蔵元。お前なら分かってくれると思っていたんだが、私の期待はずれか? 春といえば、あれだ。これだよ」
そう言いながら小指を立てる先生。今の世代からしてみれば確かに古い仕草だろう。もしかしたら、今の若い世代には通じないかもしれない。だが、輪廻転生という摩訶不思議な体験をしている僕には通じた。そして、同時に先ほどの意味も理解できた。
「ああ、なるほど。そういう意味ですか」
「私には、この仕草が理解できて、さっきの言葉の意味が理解できないお前が分からないよ」
そういわれても、今の僕は小学生という意識が強くて春が来たといわれても、彼女ができたという思考に結びつかないのだから仕方ない。もしも、僕が中学生ぐらいになれば、まだいくらか思考の回路は繋がったかもしれないが、この身体は小学三年生だ。勘弁してもらいたいものである。
しかし、その春の意味が分かったとしてもさらなる疑問が出てくる。
「ん? でも、一体、どこからそんな話が出てきたんですか?」
「最近、お
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