無印編
第十話
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僕が助けを求めたからだ。高町さんはそれに応えてくれただけ。ならば、僕が何もせず高町さんが怒られているのを見るのは忍びなかった。
「あの、すいません。高町さんのお兄さん。高町さんが外に出たのは、こいつのせいなんです」
僕は、道路に立っていたイタチくんを持ち上げる。きゅー!? と鳴いたような気がするが、高町さんのためにも我慢してもらうと思う。
「こいつが逃げ出したらしくて、高町さんはそれを追いかけてくれただけなんですよ。街中でイタチなんて珍しいでしょう?」
「それは、君のペットなのかい?」
「いえ、正確には保護しただけです。今日、森の中で倒れていたのを見つけたんです。少し目を離した隙に逃げてしまって」
正確には動物病院に預けていたのだが、預けていた動物が逃げ出してしまうような動物病院は確実にダメな動物病院だろう。人の口に戸は立てられない。しかも、口コミというのは意外と厄介なもので、一度噂として広まってしまっては手遅れだ。だから、一応、僕が保護していたことにしておいた。
もっとも、事実の中のちょっとした嘘なので見破られる可能性は殆どないだろう。
「事情はわかった。だが、やはり、夜、勝手に出て行くのは危険だ。今度からは俺たちに一声かけていくんだぞ」
コクリと頷く高町さん。たぶん帰って怒られてしまうかもしれないが、これで少しは事情が分かってもらえればいいのだが。
「さて、君の家はどこだ? こんな夜だ。ついでに送っていこう」
「……それじゃ、お願いできますか」
親切心からの言葉なのだろう。しかも、ここで断る理由はどこにもない。むしろ、断ることこそが後ろめたいことを隠しているようで僕には断ることはできなかった。
◇ ◇ ◇
歩いて十五分。それがあの場所から僕の家までの時間だった。
「今日は、ありがとうございました」
「いや、礼には及ばない」
僕がお礼と同時に頭を下げると、謙遜するように高町さんのお兄さんが言う。ある程度は形式めいたものだが、やらないよりもやったほうがお互いに気持ち良い。
お互い、形式めいた言葉を交わし終えて、今日はこれで終わりとばかりに背を向けて帰り始めた。
「高町さん」
僕は高町さんのお兄さんと同様に背中を向けた高町さんに言葉を投げる。
「また明日」
途中で遮られていた言葉の続きを聞こうという意味も込めて僕は高町さんに別れの言葉を告げた。
振り返った高町さんは、僕の言葉になぜか少しだけ驚いたような顔をしていたが、すぐに僕がお礼を告げたときのような笑顔になって、うん、と頷いてくれた。
二人の姿が小さくなり、やがて消える。そうして、ようやく僕は家に入れるようになった。
「
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