無印編
第十話
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もなければ、恐怖に歪んでもいない。
まるで、感情という器官が停止してしまっているように思える。
最後に高町さんの姿をきちんと見たのは、一年ほど前だろうか。高町さんが不登校になったときに高町さんの日頃の様子を探りはしたが、探っただけで彼女に直接出会った訳ではない。つまり、クラスメイトだった日々が最後だというわけだ。だが、少なくともそのときはこんな風な表情をするような女の子ではなかったはずだ。一体、彼女に何があったというのだろうか。
しかしながら、今はそんなことを考えている暇はなかった。僕は、交差点の角を曲がると、高町さんを前に連れてきて、すぐ傍にあった電柱に隠れるようにして、背を預けて、ズルズルとずれてその場に座り込んだ。
長時間走り続けたせいか、かなり息があがっている。正直、息が整うまで待って欲しかったが、そんな時間も惜しかった。
「高町さん、まずは、来てくれてありがとう」
正直言うと、もしかすると魔力を持っている僕以外のもう一人は来てくれないんじゃないか、という疑惑を持っていた。なにせ、頭の中に響く声だ。僕は、自分自身が超常現象だから、ある程度信じられたが、普通の人ならまず信じられない。もしも、誰かに言ったとしても、それは都市伝説である黄色い救急車を呼ばれてしまうだけだろう。
だから、感謝を告げる。まだ、助けてもらったわけではないけれども、来てくれただけで十分嬉しかったから。
もっとも、ここで下手を打つとこの場にいる全員が死んでしまうわけだが。できるだけ、そんなことは考えないようにした。
「後は、魔法に関してなんだけど……」
僕は、僕が座り込んでいる隣で大人しくしていたイタチくんに視線を向け、持っていたレイジングハートと呼ばれた赤い宝石を渡す。それだけで僕の意図を汲んでくれたのだろう。僕が未だ持っていた赤い宝石を口にくわえると、高町さんの前に立って魔法に関する説明を始めた。
さて、これでしばらく僕はお役ごめんだろう。少しの間とはいえ、体力を回復させてもらおう。
やはり小学生の身体でここまで走るのは無謀だったのだろう。洋服は既に汗でびしょびしょだ。家に帰れたら、もう一回お風呂に入らなきゃな。
そんな少しの安寧を得た僕は平凡なことを考えながら、高町さんを見ていた。
まるで、表情の見えない高町さんだったが、イタチくんから赤い宝石を受け取ると、それを真剣な目で見ていた。いや、それは真剣な、と形容するよりも思いつめたという形容のほうが正しいだろうか。何が原因か分からないが、必死という言葉が彼女には似合うように思える。
一体、初めて出会った魔法というものにここまで必死になれる理由とはなんだろうか。
僕は、体力を回復させるために休んでいる傍ら、思考をそちらへと飛ば
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