無印編
第九話 後
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、スピードが一瞬ゼロになるのだ。その瞬間を狙って、僕は減速なしで走り続けている。
しかし、この方法も永久的に続くわけがない。体力という名の限界があるのだから。
「さて、本当にどうしたものかな?」
ここまで手詰まり感があると他に手が中々思いつかない。
だが、このままでは、本当にミンチになって死んでしまう。それだけは避けたいのだけれども……。さて、本当に手がないのだが。
そう思っていたところで、先ほどまでずっと考え込んだ表情をしていたイタチ君が口を開いた。
「……もう一人の方に助けを求めましょう」
「もう一人?」
「ええ、僕の念話に反応があったのは二人です。貴方ともう一人」
「その人に助けを求めるって?」
なるほど、手がないなら、他から持ってくるしかないということだろう。
この場を打開するためには、いい考えだとは思う。さらに他の人を巻き込んでいいのか? いや、放っておいたところで、どうせ襲われるのだか今、巻き込んでも問題ない、という思考が生まれ、躊躇したが、それも本当に一瞬だった。
なんだかんだと理由を立てているが、正直に言うと、僕は他人を巻き込んでも死にたくないのだ。一度、輪廻転生という超常現象を体験し、死んでいると過言ではないものだが、死というものは抗いがたい恐怖を生み出す。そして、その死という恐怖から逃れられる手があるなら、僕は躊躇なく選択するだろう。それが、たとえ他人を巻き込むものであっても。
巻き込んだことについては後で謝ろう。幾ばくかの御礼をしよう。
ああ、なるほど、イタチくんと同じ選択を取るしかない状況でようやく彼の心境が分かったような気がした。確かにこんな状況になれば、誰かに助けを求めてもおかしくない。それが助かる希望の光なら尚のこと。
「それじゃ、今度は僕に言わせてもらえるかな?」
「え? 念話ですか? 起動しなかったとはいえ、認証パスワードで貴方もゲスト権限は持っていると思うので、念話程度ならできるでしょうが……」
その念話というのがあの頭に直接響いた声の正体というのなら、僕にも可能らしい。イタチくんが慌てていたのは分かるが、あれでは誰も助けに来ないだろう。むしろ、不審者だ。できれば、身元がしっかりしていたほうが助けに来てくれる確率は上がるだろう。
「これを持って、話せば良いの?」
僕は渡されたままの赤い宝石をイタチくんに示した。
「はい、それで大丈夫です」
なら、助けを求めるとしよう。
できることなら、僕よりも年上で、男性で、荒事に慣れていて、度胸がある人が来てくれればいいんだが、それは高望みがすぎるだろうな。
そんなことを思いながら僕は、赤い宝石を握って助けを求めた。
◇
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