無印編
第九話 後
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なくてもいいのよ」
槙原動物病院の先生は膝を曲げ、僕に目線を合わせて優しい声で言ってくれる。誰もが甘えそうな優しい声。この声で動物たちを診ているのだろうか。だとすれば、動物が大人しく診察されるのも、なるほどと納得できる。
「君がしたことはとても尊いことなの。その気持ちを忘れないで。それが私にとって一番の報酬なんだから」
そういって、僕の頭を撫でてくれる。
先生の言葉を綺麗ごとだ、と断じるのは簡単なことだろう。確かに僕が動物を拾って病院まで運んで来たことは尊いことかもしれない。だが、それで彼女はご飯が食べられるわけではないのだ。イタチを助けた薬や包帯に使ったお金が降ってくるわけでもないのだ。
現実的にいうなら、僕はお金を親父か母さんからお金を借りてでも払うべきなのだろう。だが、そんなことは言えなかった。先生の優しい笑みと声に騙されたと言えばそうなのかもしれないが、これ以上何かを言うことは駄々をこねている子供のようで。彼女の優しさを無駄にしているようで。
だから、僕は、「はい」と素直に頷くことしかできなかった。
しかしながら、彼女の目的が「生き物を助ける心を持つこと」とすれば、これ以上の教育はないだろう。僕が仮に真っ当な小学生だったなら、いや、その仮定は無駄だろう。今の僕でも立派に思っているのだから。
次も動物や人を見たら絶対に助けよう、と。
その後、僕は思い出したようにアリサちゃんの後を追ったのだが、どうやら先生と話していた時間が長かったらしい。塾には遅刻してしまったのだった。
◇ ◇ ◇
塾も終わり、時刻は夜。晩御飯もすでに食べ終わり、後は学校と塾の宿題をやって、少し自分を時間を使って、寝るだけという時間だ。
僕は、学校の宿題である計算ドリルを殆ど間もなく次々と解いていく傍らで、塾でのノートを使った会話を思い出していた。
当然、あのイタチ(?)のことである。明日、誰が連れて帰るか、という問題である。
アリサちゃんの家は、犬が大量にいるので無理。週に最低一回は英会話教室のために通っているので僕も知っている。あの大型犬がいるなかにイタチ君はきついだろう。いつ、彼らの胃袋の中となるか分からない。
すずかちゃんの家も問題ありだ。アリサちゃんの家が犬なら、すずかちゃんの家は猫だ。しかも、大量の猫。さて、あの大きさなら少し大きなネズミとして追いかけ回されてもおかしくない。
さて、最後に僕の家。あまり問題がないように思えるが、最大の問題がある。秋人のことである。最近は一歳と半年。最近はどこでもここでも這いずり回っている。少し目を離せば、姿が消えているのだから家族みんなで心配の嵐である。もっとも、僕のように新聞と睨めっこしているわけではない
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