無印編
第九話 前
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だが、その心遣いが挑発に見えたのだろうか。
「進むわよっ! 幽霊なんて絶対いないんだからっ!!」
アリサちゃんが、半ばムキになってしまった。これには苦笑せざるをえないが、すずかちゃんはどうだろうか? と顔を見ると、「仕方ないなあ、アリサちゃんは」という顔をしていたが、反対はしていないようだった。おそらく、彼女も興味自体はあるのだろう。これで、意思の統一はできた。
「それじゃ、行こうか」
僕は歩き出し、アリサちゃんとすずかちゃんが後からついてくる。ちらっ、と後ろを横目で確認すると、アリサちゃんが、すずかちゃんの腕に自分の腕を絡ませて、ぴったりくっついていた。
怖いなら、大人しく引き返すといえばいいのに。
もっとも、それがいえないからアリサちゃんなのだろうが。
さて、しばらく無言で歩き続ける。時折、カサッと風で木々が揺れると後ろのアリサちゃんが「ひっ」と悲鳴を押し殺すような声を上げていた。意地っ張りもここまで来ると立派なものだと関心する。
しかし、いつまで経っても僕たちはあの声の主に出会うことはなかった。幽霊らしき姿も見えない。いや、そもそも幽霊は姿が見えなくて、声しか聞こえないという可能性もあるのだが、あの声も聞こえなくなった。もしかして、あれは気のせいだったのだろうか。
「……け、結構進んだわよね」
「そうだね」
「なにもないわよね」
「ないね」
確認するようにアリサちゃんが一言問いかけてくる。すべてが事実だ。もう少し進めば、この森を抜けてしまうだろう。
もしかしたら、本当に気のせいだったのかもしれない。
「もう少しで抜けるわよ。ほら、やっぱり幽霊なんて――「あっ!」――きゃっ! なに!? なによっ!?」
いなかった、アリサちゃんがそう告げ終わる前に僕はあるものを発見してしまった。
もしも、これが幽霊だったら、声を上げることなんてなかったのだろうが、生憎ながら、見つけたのは幽霊ではなかった。
見つけたのはきちんと実体を持った生き物だった。後ろでアリサちゃんが混乱してすずかちゃんにしがみついているが、その相手はすずかちゃんに任せるとして、僕は、その見つけた生き物に駆け寄った。
「……怪我してる」
ぱっと見た感じ、薄汚れているようにしか見えないが、所々細かい怪我をしており、血を流している。しかし、見たことのない動物だ。といっても、僕には細かい動物の種類が分かるほど動物に関する知識が豊富ではない。せいぜい分かるのは猫でも、犬でもなくイタチ系の動物であることぐらいだ。
しかし、ピクリとも動かないが、こいつは生きているのだろうか。そう疑問に思い、持ち上げてみると、まだ温もりを持っていた。微妙にドクンドクンという心臓の鼓動も掌で感じるこ
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