無印編
第九話 裏 (高町家、なのは)
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楽になっていただろう。
もう、どうでもいいことだけどね。
蔵元翔太は相変わらずなのはの中では憧れだ。そうなれたらよかったのに、とは思う。だが、そうなろうとすることは諦めた。羨望半分、嫉妬半分で彼を見ていた一年前までのなのははそこにはもうなかった。
もう、寝てしまおう。明日からも学校だ。そう思い、ベットにもぐりこんで睡魔にすべてを任せようとしたとき、再びあのときの眩暈がなのはを襲った。
―――助けてくださいっ! お願いしますっ! ―――
うるさいうるさいうるさい。助けて欲しかったのはこっちだ。
なのはは、不法侵入のように頭に響く声に心の中で反論した。
助けてくれ。それは、なのはが長年心の中で叫び続けた言葉だ。その言葉は結局、誰からも気づかれることはなく、もはや助けてもらうことは諦めてしまったが。
その声は過去の自分を思い出させてしまう。まだ、諦めず、明日にはきっと、と明日を望んでいた自分を髣髴させる言葉だった。聞きたくない。
だから、なのはは無駄だと分かっていても耳を押さえてその声を無視しようとした。
はやく寝よう。寝てしまおう。寝てしまえば、この声はなくなるから。
頭に響く『助けてください』という言葉の連続に耐えられなくなったなのはは、それを無視して眠りに就こうとして、次の瞬間に聞こえてきた声に目を覚まされることになる。
―――こちら聖祥大付属小学校三年生、蔵元翔太です。これが聞こえる人がいましたら、お願いします。僕たちを助けてください。―――
最初はどんな冗談だ、と思った。
助けを求めている。あの蔵元翔太が。何でもできる、あの彼が。
なのはには、蔵元翔太が助けを求めている光景がとても想像できなかった。
さらに言葉は続く。
―――信じられないかもしれませんが、僕たちは今、バケモノに追われています。魔法でしか倒すことができないのですが、僕には無理でした。お願いします。この魔法の念話が使えるあなたにしかバケモノを倒すことはできないのです。どうか僕たちを助けてください。―――
その内容を理解するのになのはに少しの時間が必要だった。そして、繰り返される声の内容を理解したとき、なのはの腹の底からこみ上げてくるものがあった。
「あ、あは、あははははははは」
なのはは声を上げて笑った。こんな風に声をあげて笑ったのはいつ振りだろうか。
だが、久しぶりに笑える冗談だったのは確かだ。
あの、あの蔵元翔太が、友達も、勉強も、日常生活も、全部、全部、なのはにとっての理想を体現したあの彼が、無理だったといった。お願いしますといった。あなたにしかできないといった。助けてくださいといった。
友達も、勉強も、日常生活も、全部、
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