無印編
第九話 裏 (高町家、なのは)
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ではない。無気力ならば、学校にさえ来ていない。だが、なのははこうして休むことなく学校に来ている。それは、最後の足掻きなのか、むしろすべて諦めているから言いなりになっているのか、それはなのはにも分からなかった。
なのははベンチに放り投げていた鞄を回収して屋上から去ろうとした。最後にその目に紅ではなく、すべてを飲み込んでしまいそうな黒になった海を見納めて。
◇ ◇ ◇
帰宅したなのはは、いつものように晩御飯を食べ、お風呂に入り、寝るだけという時間になった。
パジャマに着替え、後はベットにもぐりこむだけ、という瞬間、唐突に眩暈がなのはを襲う。それは、まるでマイクのハウリングを無理矢理聞かされたときのような感覚。しかも、頭の中に強制的に何かを刷り込まれるような感じだった。
―――僕の声が聞こえますか!? ―――
声が聞こえた。聞こえたというよりも頭の中に直接響いたというほうが正解だろうか。聞いたことのない男の子のような声だった。
―――僕の声が聞こえるあなた。お願いです! 僕に力を……僕に少しでいいですから力を貸してください! ―――
何か勝手なことを言っている。なのはは響いてくる声にそう思った。
―――お願いします! 時間……が―――
ブツンとラジオの電源を急に切ったような感覚で声は途切れた。同時になのはの眩暈も治まる。だが、先ほどまでの眩暈がなのはに負担を与えたのだろうか。ぱたんとベットに倒れこんでしまった。
―――今の声はなんだったんだろう。
なのはは考える。だが、思い当たる節がない。
だが、もしも、なのはに思い当たる節があったとしても無視していただろう。
なぜなら、彼女は自分が何も出来ないと知っているから。長年努力してきた。いい子であろうとしてきた。だが、失敗した。そして、一年前のあの日に己が望んだことをすべて諦め、いい子であろうとすることをやめた。
いくつのもしもを望んだだろうか。いくつのもしもを達成しようと努力しただろうか。
だが、そのすべてが実らなかった。もしも、そのうちのどれかでも実っていたとするならば、自分は何も諦めてなどいない。
そして、そこから導ける結論は唯一つ。
高町なのはは何も出来ない人間だ。
彼女が憧れた蔵元翔太とはまったく逆の存在だ。
彼は、何でも出来る人間。そして、自分は何も出来ない人間。
二人を足して二で割れば、普通の人間になるのではないだろうか、そんなことを考えたこともあった。
だが、彼を憎む気持ちはなかった。
羨望はある。嫉妬はある。だが、何も出来ない不甲斐なさはすべてなのは自身へと向けられていた。もしも、彼を憎むことができたらなのはの心はもっと
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