無印編
第九話 裏 (高町家、なのは)
[3/6]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
結論を出し、士郎は口惜しそうにそう呟くしかなかった。だが、これは仕方ないことだ。
年度初めというのはどこも忙しい。学校然り、仕事場然り。だから子供が関わるようなイベントが少ない。すぐ近くにゴールデンウィークが待っているのだ。少なくともそれまで目立ったイベントごとはなかった。ゆえに彼らは、新しいクラスでなのはに興味をもって、友人になってくれるのを期待するしかなかった。
無力、と思いひしがれながらも彼らは足掻くしかなかった。愛する末妹のために。
◇ ◇ ◇
そろそろ日が沈もうかという時間帯。なのはは一人屋上で佇んでいた。
彼女の視界には、フェンスの向こう側に今にも沈もうか、という太陽の紅に照らされ真っ赤に染まった広大な海が見えていた。
なのはがいる反対側のフェンスの向こう側からは、聖祥大付属小のグラウンドが見え、放課後ともなれば、男女混じってサッカーや野球に興じている姿が見えるだろう。一年前のなのはだったら、間違いなくそちらを羨望の目で見ていただろう。
だが、もはやそんなことはなくなった。今は広大な海を見ているほうが、この胸にしくしくと痛む寂しさを埋められるから。自分という人間がちっぽけに思え、胸の寂しさもちっぽけなものだと思えるから。
期待しないことと寂しいことは同価値ではない。期待しないからといって、寂しさがなくなるわけではない。むしろ、前よりも増したといっても過言ではない。いつか私もと期待してた頃なら、その想像で寂しさをある程度生めることは可能だっただろう。だが、今はもう期待していない。だからこそ、誰かが笑いながら遊んでいるところを見ると寂しくなる。もう叶わない理想の自分を見ているようで。もう諦めてしまった自分は、あそこに入ることはできないのだと分かるから。
だから、なのはこの海が好きだった。
大きすぎるから。小さな小さな自分を飲み込んでくれそうだから。
諦めたその日から通っていた学校に行き場所がなくて、放課後もすぐに家に帰ったとしても自分の居場所がなくて、偶然屋上に来たとき、目の当たりにした広大な紅い海を見たときそう思った。そのときから、この時間の海はなのはのお気に入りだった。
転落防止用のフェンスをガリッと握り、海を見つめるなのは。その脳裏に何が浮かんでいるかは分からない。ただ、一年前みたいに自分が誰かと遊んでいる姿ではないだろう。なぜなら、彼女はもうすべてを諦めてしまったのだから。
やがて、日が暮れる。それは、この場に佇める時間の限界を意味している。もう少ししたら用務員の人が屋上の鍵をかけにやってくるだろう。下手に残っていて教師に見つかると色々と厄介なことになる。すべてを諦めたからといってどうでもいいや、と投げやりになっているわけ
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ