第五章
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『第一回 姶良の自転車メンテ教室』を開いてみたところ、こいつがもう……
全員を、爆睡状態にしただけだった……
……爆睡している部員たちを見ながら、FFタクティクスに登場した「ダーラボンのまね」とかいう睡眠攻撃を思い出していた。…あぁ、あれ、こんな感じなんだ。
考えてみれば、この人たちに自分で覚える気がちょっとでもあれば、僕はこんなに苦労をしていない。これは必然の反応なんだ。なにやってんだろう、僕。そう思うと、ちょっと笑いすら込み上げてきた。そして僕は終始笑顔、部員は終始爆睡状態の、異様なメンテ教室は幕を閉じたのだ。多分もう、二度と開催しない。
「あ、それいいね。姶良、俺もオーバーホール一丁!」
オーバーホールとか気安く頼むな、料金取るぞと言いたいのをぐっと堪える。
「…一丁じゃなくて。そろそろ自分で覚えなよ。出先でトラブルが起こったらどうすんだよ」
「ケータイで姶良を呼び出すよ」
「…JAFか、僕は」
「まぁ、そう言うなって!ほら、いいソフトやるからさ」
仁藤がもったいぶりながらカバンから取り出したDVDには、黒いマジックで「着せかえ」と殴り書きされていた。『何が入ってるか分かればOK』のコンセプトは伊達じゃない。そんなことじゃ、いずれ何が入ってるのかも分からなくなるぞ。
「じゃーん!ちょっとイケないサイトで拾った、MOGMOGの着せ替えプラグイン!!」
「…わぁ」
内心しらけていたけれど、僕が既にそれを持っていることを勘付かれるわけにはいかない。少し感心したふうに、目を見開いてみせた。
「これな、MOGMOGの服を着せ替えられるんだぜ!」
「へぇ。いま、どんな服着せてるの?みせてよ」
「見せてよってお前…なぁ?」
佐々木と目を見交わして、にやにや笑っている。あぁ、そうか。MOGMOGを人前で見せるのが恥ずかしいのか。わかるわかる。紺野さんに毒され過ぎて、そういう人としての羞恥心を忘れるところだった。
「そ、そうだよね、MOGMOG、ちょっと気恥ずかしいよね」
「そういう問題じゃなくて……なぁ?」
「…なぁ?」
相変わらず、微妙な含み笑いを浮かべ、目を見交わす仁藤と佐々木。
「…なんだよ。気持ち悪いな」
「……ちょっと来い」
仁藤が、教室の出入り口を顎でさした。
誰もいない東側2階の講堂は、傾きかけた太陽の淡い残照を、向かいのビルの反射光から取り込み、ただ薄青く冷えていた。ほの暗い講堂の、コードがギリギリ届く一番後ろの席。ノートパソコンのディスプレイから洩れる青い光が、2人のモテなそうな男達の貌を照らし出す。……生前一度たりともモテずして童貞のうちに逝った学生の地縛霊みたい…と思ったけど口に出さず、適当に買ったコーヒー缶を抱えて近づく。
「どう?」
「おぅ、もう立ち上がってるぞ」
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