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第七話 裏 (なのは)
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「ああ、今日、来てくれて大事なことを俺たちに教えてくれたよ」
それは友達がいないことで悩んでいると結論付けた士郎と桃子が取った配慮だったのかもしれない。子供とはいえ、いきなり友達がいない、ということを聞くのは憚られたため、取った配慮。
彼らが言う『大事なこと』とははのはの悩みの根幹を意味するのだが、それはなのはにとって異なる意味に聞こえた。
つまり、先ほどまでのことがすべて蔵元翔太から教えてもらった大事なことなのではないだろうか、という疑念だ。
抱きしめられたことも、触れ合えたことも、こうして笑っていることもすべて。
なのはの望んだ理想は、彼らとの心からの触れ合いだ。先ほどその願いは叶ったように感じられた。だがしかし、それが蔵元翔太によるものだとしたら。
先ほど触れ合った彼らの温もりが虚像のような気がした。
なまじ、なのはの中の蔵元翔太への評価が高すぎたことが災いした。
もしも、ここで出てきたのが別の名前だったなら、担任の先生の名前だったなら、あるいは、なのはの精神が子供のままだったなら、過程を無視して結果だけ甘受できるような人間であったなら、なのはの感情もまた異なるものだっただろう。
なのはにとって彼は理想の体現者であり、何でもできる人間なのだ。ならば、なのはの悩みを見抜いて、両親が先ほどのような行動に仕向けることも可能かもしれない。
もちろん、それは過大評価で、神でもない彼にそんなことは不可能なのだが、なのはの中でそれは真実になっていた。
―――ああ、そうだよね。なのはみたいな『悪い子』にこんな『良いこと』起きないよね。
隣で士郎が、翔太のことを「できた子供」と称賛している。
―――そうだよね。蔵元くんは、なのはと違っていい子だもんね。
先ほどの触れ合いが『なのは』がいい子だったからではなく、翔太の扇動によるもと思い込んだなのはの絶望は深い。一度喜んだだけに尚のこと。
―――もう、いいや。
そもそもが間違いだったのだ。自分のような『悪い子』が『いい子』になろうとしたことが。
一度、立ち上がっただけに、もう一度打ちのめされて、さらに頑張ろうという気力は小学2年生の小さな身体にはなかった。
だから、高町なのはは、家族と触れ合うことも、友達を作ることも―――
「ん? なのは、どうかしたか?」
「なんでもないよ」
高町なのはは己が望んだことすべてを諦めた。
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