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第七話 裏 (なのは)
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あ、あ、あ、と声にならない声をだし、恐怖からカチカチと歯を鳴らすなのは。だが、士郎はそれに気づいているのか、気づいていないのか、ゆっくりと歩みを止めずに歩み寄り―――
がばっ、となのはを強く抱きしめた。
「ほえ?」
なのはが自分でも驚くような声を出してしまった。気の抜けたような声。
士郎の意外な行動の前にはそのような声しかでなかった。てっきり拒絶の言葉がでると思っていたから。だが、抱きしめられた。
父親の体温がなのはの身体中から感じられた。頭に回されたごっつい手を感じた。それは、なのはが長らく感じたかった父親の温もりだった。
そして、父親が耳元で囁く。
「ごめんな、なのは。お父さんたち、気づいてやれなくて」
その言葉を聞いたとき、なのはの心が決壊した。
今までいい子でいなければならないと守ってきた寂しさが一気にあふれ出した。
「ふぇ、ふぇぇぇぇぇぇぇんっ!!」
なのはは、泣いた。まるで小さい子供のように。だが、士郎はそれを笑うわけでもなく、ただ抱きしめて髪の毛を撫で続けた。まるで今までの分を取り戻すように。
◇ ◇ ◇
一体どれだけの時間泣いただろうか。やがて気が済むまで泣いたなのはは、11日ぶりにリビングへと顔を出し、心配していた兄と姉にごめんなさい、と言うと彼らに笑顔を見せていた。兄と姉から抱きしめてもらった。なのはが欲しかった温もりが確かにそこにあった。
そして、今、なのはは泣いた目を真っ赤にしながら、それでも笑顔でホットミルクを飲んでいた。テーブルに座るのは高町家の面々。彼らの表情は前日までとは違って笑顔だった。
それから、彼らと話をした。学校での友達の作り方が主だった内容だったが、なのはにしてみれば、今はどうでもいいことだった。なのはが一番望んでいたのは、家族との触れ合い。それが、先ほど抱きしめてもらえたことで叶ったのだから。
しかし、なのはには分からない。少なくとも引きこもっていたなのはは、『悪い子』だったはずだ。だが、彼らは抱きしめてくれた。いや、『気づいてやれなくて』という言葉から考えれば、今まで『いい子』だったことに気づいてくれたのかもしれない。
どちらにしても、今までのなのはが欲しかったものは手に入れられたのだ。それが嬉しかった。それだけでよかった。なのはは間違いなく今まで生まれてきた中で一番幸せだった。
―――――次の士郎の言葉を聞くまでは。
「蔵元くんが教えてくれなかったら、と思うとぞっとするな」
「くらもとくん?」
なのはのそのときの声は酷く平坦だったはずだ。
どうして、その名前が出る? 彼らは、なのはがいい子であることに気づいてくれたのではないだろうか。
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