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第七話 裏 (なのは)
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 絶対、聞きたくない名前だった。なのはの理想の体現者。絶対に追いつけない人。

 もしも、彼のようになれたら、親は、兄は、姉はもっと構ってくれただろうか、たくさん友達ができただろうか、楽しく学校生活を過ごせただろうか。

 何度、思い描いたか分からない。蔵元翔太のようになる自分。だが、それはもはや届かないものだと思い知った。思い知らされた。
 だからこそ、もはや顔も見たくない。彼に憧れてしまうから。もう追いつけないと分かっているのにそんな思いを抱いてしまう自分が惨めだと思うから。

「嫌っ! 絶対に会いたくないっ!」

 もしかしたら、お母さんはびっくりしたかもしれない。こんな声は出したことがなかったから。
 だが、そこまでして拒否する人間なのだ。今の高町なのはにとって蔵元翔太とは。

 やがて、扉の向こう側の気配がなくなった。たぶん、立ち去ったのだろう。この十日間で気配探知だけは上手くなったなのはだった。

 母親の気配がなくなったことを確認してから、またなのはの頭はまたローギアへと移る。そのまま、母親が来る前と同じくどこか虚空を見つめる。なのはの中ですべてが空っぽだった。

 一体どれだけの時間が経過しただろうか。なのはの中で時間の感覚は曖昧だった。

 またコンコンコンと部屋のドアがノックされる。だが、なのははそれを無視した。以前ならば、すぐに応えただろうが、今の彼女はとことん無気力だった。

「なのは」

 父親の呼びかける声の後、ガチャガチャ、とドアを開けようとする音がする。鍵はかけたままだ。当然開かない。
 気配が濃くなり、何をするつもりだろうか、となのはが思ったその刹那、ドンッ! という激しい音を立てて鍵がかかったままであるはずのドアが開いた。
 これには無気力だったなのはもさすがに身体を起こす。ドアの向こう側の廊下に立っていたのは、彼女の父親である高町士郎だった。

 士郎が一歩、なのはの部屋に踏み入れると同時になのはの身体は恐怖で震えた。

 それは、士郎が怒った表情をしているからではない。確かに、彼の表情は真剣な表情であるが、怒気は醸し出していない。
 なのはが恐れているのは、彼の口から発せられる彼女を拒絶する言葉だ。

 『いい子』であれば、相手をしてもらえる。構ってもらえるという思いが根底にあるなのはにとって、最も忌避すべきことは、両親からの拒絶の言葉だ。引きこもったのは、もしかしたら引きこもることで彼らからその言葉を聞かなくてすむと無意識のうちに考えたからかもしれない。

 士郎が一歩ずつなのはに近づいてくる。なのはは士郎が一歩ずつ近づいてくるに従ってずりずりと士郎から距離をとるようにベットの上を移動するが、ベットの上は狭い。すぐに限界が来てしまった。

 
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