本編前
第七話
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う事実は彼らの記憶に残ってはいるが、ただそれだけだ。何か記憶に残る会話も行動もなかった。
まるで、無色透明な人間。つまり、それは『いてもいなくても一緒』という話だ。
怪訝に思った僕はもっと詳しく聞いてみるとよくわかった。
高町さんは肯定しかしない。あるいは、常に流される。彼女は彼女の意思を見せない。ただ存在するだけの存在だった。
確かに自分の意見を言えない人間というのは存在する。だが、それは内気な性格からである。僕が知っている限りでは高町さんは、そんな性格ではなかった。そうでなければ、最初の二週間程度で僕が気がついているはずである。一応、クラス全部に気を配っていたのだから。
どうしてそうなったのか僕には分からない。
なにか打算があったのか、もともとの性格だったのか、自分の意見を考えるのが苦手なのか。
いずれにしても不登校という現状は不可解なものである。なぜなら、それらはすべて高町さん自身が承知の上での行動であり、不登校という結果には決してならない選択だからである。
どうしてだろう? と僕がこれ以上考えても何も分からないので、僕は高町さんの現状をすべて高町さんのお父さんとお母さんに伝えた。
「―――というわけです」
僕の話を二人は神妙な面持ちで聞いていた。僕と違って八年間ずっと高町さんを見てきた二人である。何か思うところがあったのかもしれない。
「僕から言えることは以上です」
少しだけ冷めた紅茶を僕は口に含む。ずっと話していたからだろう。少しだけ冷めた紅茶は乾いた僕の喉を潤してくれた。
一方で二人はずっと何かを考えるように黙っている。雰囲気は非常に重い。それも納得できる。なぜなら、彼らは今まで高町さんの現状に一切気づいていなかったのだろうから。子供のことに気づかなかった親というのは存外ショックなものだろう。
しかし、そうなると、高町さんは、友達がいるように家族の中では振舞っていたということだろうか? なぜ? 家族に心配させないために?
やっぱり分からない。そもそも、彼女に関することは些細なことしか知らない僕が結論を導き出せるわけがないのだ。
いくら心理学を学んでいたとしても『高町なのは』という少女を知らない僕が彼女の心理を理解するのはこれが限界だった。
やがて、黙り込んでいた高町さんのお父さんが曇らせていた表情を取り繕ったように笑みを見せてくれた。
「蔵元くん、だったかな。大事なことを教えてくれてありがとう」
「いえ、僕にはこれぐらいのことぐらしか出来ませんから」
僕にはこれ以上のことは出来ない。
彼女と友達でも、親友でも、恋人でも、家族でもない赤の他人である僕には彼女と話をするなんて無理な話だし、個人的な興味で心理学に手を出した
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