How much
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僕はすぐに家族のみんなを呼んだ。「みんなーおっさんが、子供を産んだよー、早く見に来てー」
すぐに家族全員が集まった。そしてみんな赤ちゃんを興味深げに見た。
小さいねー、可愛いねー、早く服買ってこなくちゃ、そんな声がしばらく続いた。
しばらく見ていた僕達だったが、妹が突然「アレ?」という声を出した。
妹の方を見てみると、なにやら難しい顔をしている。
「どうしたの?」と聞くと、妹は背中の方を見るように促した。妹に言われるがまま、背中の所を見てみると、なにやら白い物体が……。は、羽? 羽が生えている。
しばらく、僕達は混乱したが、その混乱が一段落すると一つの答えを導き出した。
突然変異だ。それしか考えられない。僕達は、インターネットで世界中の小さなおっさんの突然変異を検索した。しかし、羽の生えた小さなおっさんは、ついに見つからなかった。
「世界初の羽が生えた小さなおっさんだ」
僕が喜んでいると、父ちゃんが、これ売ったら高く売れるだろうな……。と呟いた。そう言われて、僕はおっさんを売ることを考えてみた。すると、自然と涙がぽろぽろと流れ落ちてきた。おっさんと過ごした春夏秋冬が走馬灯のように甦ってきた。そのどれもが、かけがえのない宝物だ。
おっさんを売ることなんてできやしない。僕は固く決心した。
おっさんが子供を産んで、3ヶ月もすると子供は親と変わらない大きさになった。そして親子、なかむつまじく水槽の中でフォークダンスを踊ったり、水泳をしたりしていた。
二人のおっさんを見ていると、ほんわかと温かい気持ちになった。
その年の冬のある日、おっさんは僕に何かジェスチャーをした。自分と子供を指差し、その後、空を指差した。
僕はおっさんと長い付き合いだし、すぐに理解した。おっさんは子供と二人で旅に出たいんだ。二度と戻らない旅に……。
僕は、おっさんの気持ちを汲んであげることにした。だって、外に出られるのは、親のおっさんだけだから。もし子供といっしょにおっさんを外に出したら突然変異の子供はすぐに捕まって連れ去られるかもしれない。それじゃあ子供は可哀想だ。
僕達家族は、太陽が顔を出し始めた冬の朝、おっさん達を車で近くの港まで連れて行った。
――いよいよ、お別れの時が来た――
おっさんとその子供は、僕達にありがとうと、掌を二つ合わせ、ぺこりと頭を下げた。そして、太陽の光が反射する海の上を子供の背中に乗り、ゆっくり飛んで行った。
親のおっさんはこちらを向きながら、またぺこりと頭を下げる。
いままでどうもありがとう、小さなおっさん。そしてさようなら、小さなおっさん。幸せにね。僕は心の中で呟いた。
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