暁 〜小説投稿サイト〜
水槽で飼われている小さなおっさん。
おっさんin水槽。
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[1] 最後
 僕の知り合いの友人が家で小さなおっさんを飼っているというので、見せてもらうことにした。
 わくわくしながら、小さなおっさんが飼われている二階へ向かい、ドアを開けるとすぐに水槽が目に入った。
「ほら、この人だよ」
 小さなおっさんを飼っているその人が、少し無愛想に言った。あまり見せたくなかったのだろうか。
 水の中に生息している、おっさんは、身長約三十cmで、髪は黒くて七三分け、顔は少しふっくらしている。体は体操選手や格闘家のような鍛え上げられた体つきだ。服は黒のタンクトップに黒の短パンで、心臓を突き刺すような鋭い目つきが特徴的だ。えらはどこにも見当たらない。どうやって呼吸しているのかは謎だ。
 僕は軽く会釈をした。しかし、おっさんは瞬きもせず、ただ僕を睨みつけているだけだ。
 しばらく見ていた僕は、飽きてきた。そして、ちょっとおっさんをからかってみたいという衝動に駆られた。どうせ人間じゃないから言葉も分からないだろうし、水槽の中にいるから安心だ。
 そう思って、おっさんにあっかんべーをしてみた。心なしかおっさんの表情が、ぴくついた気がした。でももう二度と会うことはないだろうと思い、お別れの意味も込めておっさんに、くちぱくで、ばーかばーかと言った。
 おっさんの手がゆっくり動いた。
[ガシャーン]
 僕は、一瞬放心状態に陥った。割れたガラスからはとめどなく水が流れでている。
 えっ? お、おっさんがガラスを割った? しかも正拳突き一発で?
 それを見ていた小さなおっさんを飼っている人はあーあやっちゃったよ、といったような顔で僕を見ている。怒ったら飼い主にも止められないということなのだろうか。
 僕をねめつけるおっさん……。僕の頭に死の文字が鮮明に浮かんだ。僕はその瞬間おっさんを蹴って、おっさんが倒れている間に逃げようと思った。が、どこへ蹴っても素手で受け流される、そんな感覚に襲われた。これは、ピッチャーがどこへ投げても打たれるような気がするという感覚と近いかもしれない。
 おっさんは、近くの棚に行き何かのビンに手を伸ばした。そのビンを良く見てみるとそこには塩酸と書かれていた。
 このおっさん僕を殺る気だ。全身から血の気がスーッと引いて行った。なぜ、この家に塩酸があるのかは分からない。だが、今はそんなことを考えている場合じゃない。
 おっさんはビンを手にし、こちらに向き直した。
 瞬間、僕はドアを開け、逃げ出していた。やばい、あいつやばい。僕の動物的本能がそう告げていた。階段を急いで下り、玄関の所まで行き、音がしないように静かにドアを開け、外へ出た。
 ばれなかっただろうな……。たぶん二階の窓からおっさんは僕が逃げていないか監視しているだろう。もう少し玄関の入り口で様子を見て、落ち着いたら逃げよう。
 そう思った矢先、玄関
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