霧の中の断頭台
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ロンドン、言わずと知れた英国の首都である。古代ケルト語であるこの名に見られるとおりイギリスには幻想的な話が多い。それはイギリス人の無意識にまで浸透している。
イギリス文学といえばまず第一に挙げられるのがシェークスピアであろう。あの独特のくすんだ世界もまたケルトにそのルーツがある。
真夏の夜の夢に出てくる妖精達だけではない。マクベスの三人の魔女達の正体は人々に忘れられてしまったケルトの女神達であるという人もいる。何故なら彼女達は森にいるからである。
ケルトの民にとって森は神聖なものであった。彼女達はその中で魔術を操っていた。そしてマクベスに運命を告げたのである。そのマクベスは森が動いた時に死んだ。彼は森に殺されたのだ。
森は欧州の全てを覆っていた。そしてその中に神々はいたのである。
嵐の神ヴォータンに仕える女オルトルートは森に潜みブラバンテの姫エルザに罠をかけた。タンホイザーは森の中にあるヴェーヌスベルクで快楽に耽った。
トリスタンとイゾルデは夜の森の中で互いの愛を確かめ合った。ジークフリートは森の奥深くに潜む龍を倒し呪われた指輪を手に入れた。森は聖なるものがいると同時に邪なるものも潜んでいるのである。
今その森は大きく減った。だが人々の心にはその森はある。そしてその中に神々も龍も、魔女も、そして妖精達も棲んでいるのである。
そうした精神風土は欧州全体にある。その中でもこのイギリスは色濃いだろう。
トランプを構成するスペード、クラブ、ダイア、そしてハート。これはケルトの神々の宝がもとになっているのである。
騎士。キリストの教えが伝わる前からあった。ク=ホリンやフィン=マックールが有名である。今もイギリスの貴族達は騎士道精神を尊ぶ。それはこのケルトの騎士達の心なのだ。
そうした多くのものがこのイギリスの中に息づいている。ロンドンの名が示すように。
「しかしこう雨が多いと嫌になるな」
本郷猛はそのロンドンの中を歩いていた。
「そうか?俺は別に何とも思わないが」
一文字隼人はその隣にいた。二人は傘をさして霧雨の降るロンドンを歩いている。
「御前は慣れているからだろう。子供の頃はここに住んでいたからな」
「ああ、何か懐かしい気持ちだな」
一文字は本郷の言葉を聞いて答えた。
「子供の頃はこうやって親父とお袋に連れられて霧雨の中を歩いたな」
「そうか」
「ああ、ロンドンってのは煉瓦造りの街だろ?外見はまり変わらないんだ。だから子供の頃の記憶がそっくりそのまま甦ってくる」
「楽しそうだな」
「勿論さ。これが戦いでなかったらもっといい」
「そういうわけにはいかないのが辛いな」
「ああ」
一文字は本郷の言葉に対し答えた。それまで緩んでいた頬を引き締めた。
「俺達の宿命だな。奴等をこの世から消し
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