本編前
第五話
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だろう。他の先生たちの心配事はすべて僕が処理しているのだから。
しかし、そうだとしても、もし、僕が失敗すれば、その責任はすべて先生が取ることになっているのだが。それを分かっていながら、僕に一任して職員室にいるのであれば、僕はこの先生からよっぽど信頼されているのだろう。嬉しいというべきか、怠慢するなというべきか。はて、判断に困ることである。
「まあ、もっとも、お前さんがこの話を聞いて、嫌気が差して、もう知りませんっていうなら、私はこの紙の束とノートを持って教室の机で仕事をやらなならんだがな」
さあ、お前はどうする? と先生の目が聞いていた。
判断に困ると思ったところで、この言葉。正直、僕にはこの人が心を読んでいるんじゃないか、と疑いたくなる。これが、しょせん、大学までの経験しかない僕と社会で生きている先生との絶対的な差なのだろう。
だが、しかし、よくよく考えてみれば僕の答えは決まっていた。 何度も、もうやめようと思ってもやめられなかったことがすべてを物語っているじゃないか。
「いえ、先生はここで黙々と自分の仕事をしていてくださいよ」
「おや、せっかく、お前さんの気苦労から解放してやれる最後のチャンスなのに」
「いやいや、意外と僕は今の立場が気に入っているみたいですから」
大人の対応とは違って疲れることは確かだ。だが、子供というのは実に感情がストレートに表れて面白い。前世で学んだ工学という当然の結果しか返さない分野とはまったく逆ベクトルの分野であることも関係しているだろう。
「それに、昔からよく言うでしょう。『手のかかる子供ほど可愛い』って」
確かに、彼らの相手は疲れる。疲れるし、やめたいと思ったことも何度もある。それでも、やめられなかったのはやはりこれが一番の理由なのだろう。なんだかんだ言いながら、僕には彼らが可愛く思えているのだ。手のかかる奴ほど特に。もしも、彼らを可愛いとか好きだとか思えていなければ、こんな立場なんてすぐさま放り出しているに違いない。
僕の返答に一瞬、ポカンとしていた先生だったが、すぐに表情をとりなして、くすっと笑い、「そうかい、私もだ」と一言だけ僕に言った。
◇ ◇ ◇
「ショウくん、次は体育だよっ!!」
僕の隣に座る友人がよっぽど嬉しいのかわざわざ次の時間の教科を教えてくれる。
その程度は言われなくても分かっているのだが、彼の目に浮かぶ期待感を前にすると、冷たくあしらうという選択肢は消えてなくなってしまい、「今日はなにするんだろう。楽しみだね」とこちらも乗り気になって答えるしかなかった。
一年生の間の体育というのは、運動というよりも遊びの時間に近い。楽しみになるのも分かる。かくいう僕も楽しみな
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