本編前
第三話
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自己紹介してくれる月村のお姉さん。なるほど、姉といわれれば実にしっくりとくる。おそらく、月村さんが成長するとこんな顔の美人になるのだろう。
「本日は、お招きくださり、ありがとうございました。僕は、月村さんのクラスメイトの蔵元翔太です」
そういって僕は九十度近くになるまで頭を下げる。ここまで深々と頭を下げる予定ではなかったのだが、周りの空気とあまりの高級感に思わず下げなければならないような気持ちになってしまった。
これでいいのだろうか? と心臓をバクバク鳴らしながら、こんな洋館でなければ口に出せないようなことを搾り出すようにして言った。これが僕の精一杯だ。もしも保育園時代の友人に聞かせれば、変だといって爆笑してくれるか、まったく意味の通じないか、のどちらかであろう。
そんな僕の心情を知ってか知らずか、月村さんのお姉さんは、僕の挨拶を聞いてクスッと苦笑していた。
ちなみに、バニングスさんは一瞬、ポカンと呆けたような表情をした後にお腹を押さえて爆笑している。月村さんは、笑っちゃダメだよ、といいながらも口を押さえているところをみるに、その掌の下では笑っているのだろう。
「あ、これ。手ぶらじゃ申し訳ないので気持ち程度ですが」
笑っている二人を無視して僕は持っていた包みを取り出し、月村さんのお姉さんに手渡した。
「あら、呼んだのはこっちだからいいのに」
「いえ、本当に気持ち程度ですよ。中身はクッキーなので皆で食べようと思いまして」
バニングスさんに聞いても「何もいらわないわよ」としか答えてくれないので、母親に聞いてみたところ、とりあえず、家にあったクッキーを持って行きなさいと渡してくれたのだ。
何でも近くのおいしいお菓子屋さんのクッキーらしい。確か、名前は翠屋だっただろうか。あのゲームにも出てくるお店だが、味は確かだ。特にシュークリームは前世を含めても一番おいしいと断言できるほどである。
ただし、僕の小遣い程度では月にいくつも食べられないが。
「あら、そう。それじゃ、ノエル、開けて並べてちょうだい」
「はい、お嬢様」
メイドがお嬢様と呼ぶ。
前世じゃありえない光景。いや、今の世界でも月村さんと知り合いにならなければ到底触れることのない光景なのだが。
あまりの出来事についつい月村さんのお姉さんとメイドさんを見てしまった。
「さあ、座って。お茶会にしましょう」
笑いながら月村さんのお姉さんは僕たちに座ることを勧めてくれる。
しかし、気のせいだろうか。先ほど感じるこのデジャヴとも言うべきものを感じているような気がするのは。何かを忘れているようなそうでもないような。まるで、天気予報で雨だとつげられながら、傘を忘れてしまったときのような違和感だ。
はて
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