記憶の欠片
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二人の乗るセスナは引き返そうとした。その時だった。
「あらっ!?」
しずかが何かに気付いたのだ。
「良、あそこに何か見えなかった?」
彼女は靄の中のある部分を指差して言った。
「何処!?」
彼は尋ねた。
「あっちよ」
彼女は左の方を指し示した。
「僕には何も見えなかったけれどなあ」
「私の気のせいかしら」
彼女は首を傾げて言った。
「きっとそうだよ」
村雨はそんな姉に微笑んで言った。
(そうだ、あの時だった)
村雨の脳裏に記憶が甦ってきた。
「フフフ、徐々に思い出してきたようですね」
ヤマアラシロイドは槍を握りながら言った。
「脳のある部分を刺激すれば記憶など簡単に戻ります。それもすぐにね」
彼はそう言うとニヤリ、と笑った。
「それは貴方もご存知の筈ですがねえ」
そう言って伊藤博士の方へ顔を向けた。
「・・・・・・だがそれにより彼が受ける心の傷を考えたことがあるのか」
「心の傷、ですか」
彼は嘲笑するように笑った。
「そのような脆弱なものバダンには不要ですね」
彼は言葉を続けた。
「それこそ脆弱な人間の象徴なのですから」
「黙れっ、化け物が」
博士はそんな彼に対し怒声を浴びせた。
「おや、その様な事を言われて宜しいのですか?」
ヤマアラシロイドはそんな彼に対して言った。
「私の手がほんの一ミリでも狂えば彼は死んでしまうというのに」
「クッ・・・・・・」
博士はその恫喝の前に沈黙してしまった。
「そこで静かに御覧になって下さい。観客としてね」
彼はそう言うと槍を更に深く入れた。
「あっちへ行ってっくれる?」
しずかは弟に対して言った。
「けれど・・・・・・危ないよ」
彼はそれに対し反対した。
「この視界じゃ例え前に何があっても見えないし。それに見間違いかもしれないし」
「そうかあ・・・・・・」
彼女はその言葉を聞いて考え込んだ。
「なら仕方無いわね。今日は引き返しましょう」
「うん。今度は晴れた時にもっとでかいので来ようよ」
村雨はそう言うとセスナを上昇させた。そして靄の中を抜け帰ろうとした。だがその時だった。
何か激しい衝撃がセスナを襲った。そして目の前が暗転した。
全身を何かが激しく打った。それが彼が薄れ行く意識の中で感じた最後のものだった。
「姉さん・・・・・・!」
咄嗟に彼は叫んだ。だがそれが果たして声になったかは彼にはわからなかった。
何かが彼を呼んだ。そんな気がした。
「・・・・・・う。良・・・・・・」
それは姉の声であった。彼はそれを聞いて目を覚ました。
「姉、さん・・・・・・?」
目を開ける。その前に姉がいた。
「よかった、気が付いたのね」
彼女は彼の顔を覗きこんで言った。どう
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