記憶の欠片
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していく。彼はそれを妙な気分で受けていた。
「あ・・・・・・・・・」
脳裏に何かが浮かんできた。
それは幼い日の自分の姿であった。この屋敷で両親や姉と遊ぶ自分。
ある日両親が事故でこの世を去った。葬儀の後姉が自分に言った。黒く長い髪の美しい姉であった。
「これからは二人で生きていきましょう」
彼女はまだ小さい村雨を見下ろして言った。
「私が貴方を守っていくからね」
彼女は微笑んで言った。
「ううん、それは違うよ」
幼い村雨は姉に対して言った。
「僕が姉さんを守ってあげるんだ」
姉はそれを聞くと微笑んだ。それからは二人で生きてきた。
両親の残した遺産がある為生活には困らなかった。それは大きな救いであった。
姉は大学を出て新聞記者となった。彼はブラジルの大学に留学した。
彼はそこでパイロットの技術を身に着けた。それは後々大いに役に立った。
ブラジルに取材に来た姉をセスナに乗せた。彼女は南米に現われるという未確認飛行物体についての取材に来たのだ。
「UFO!?そんなもの幾らでも見られるよ」
村雨は彼女に対して言った。航空自衛隊のパイロット達の間でもこうした未確認飛行物体の目撃例は案外多い。特にこのブラジルはUFOの目撃例が極めて多い事でも知られている。
「それが尋常じゃないのよ。ここ最近特に多いし」
彼女は真剣な表情で言った。
「そうかなあ。そうは思えないけれど」
彼もパイロットの端くれである。そうした話はよく聞く。
「まあ折角久し振りに会ったし。僕も協力させてもらうよ」
「有り難う。持つべきものは出来のいい弟ね」
彼女は微笑んで言った。
「ははは、お世辞はいらないよ。シェラスコを奢ってくれるだけでね」
彼は冗談で返した。そして二人はセスナに乗り込んだ。
「場所は?」
彼は上空にあがると尋ねた。
「ギアナ高地の辺りで。あそこが特に多いっていうから」
「ギアナ高地、か」
ギアナ高地は標高二千メートルを越す極めて高い高原である。その為秘境とも呼ばれ独自の進化を遂げた動物や植物もいる。シャーロック=ホームズで知られるイギリスの作家コナン=ドイルが『ロスト=ワールド』という作品の舞台にしたことでも有名である。
「あそこは雲が多いしねえ。セスナじゃ厳しいなあ」
「少し行ってくれるだけでいいの。他にも怪しい場所はあるし今回はさわりだけでも」
「それならいいけれど。今度はもっとでかいので行くか」
彼はそう言うとセスナをギアナ高地へ向けた。
ギアナ高地は厚い靄に覆われていた。最早何も見えない。
「これは駄目だな」
村雨はセスナを操りながら言った。
「姉さん、この中を飛ぶのは自殺行為だ。引き返そう」
彼は隣にいる姉に対し言った。
「そうね。仕方ないわ」
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