失われた記憶
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。博士と共にバダンを脱出する時に二人を取り囲んだ一団の中心人物である。
「お久し振りですね。あの時以来ですか」
それは向こうもわかっている。穏やかな笑みを浮かべ彼に話しかけてきた。
「ヤマアラシロイド。これが今の私の名です」
そう言うと一礼した。
「・・・・・・バダンの改造人間か」
「ええ。貴方に用件があってこちらに参りました」
「・・・・・・何だ」
彼はヤマアラシロイドから視線を反らさずに問うた。
「単刀直入に言いましょうか。バダンに帰られませんか」
ヤマアラシロイドは村雨に視線を返して言った。
「何故だ」
村雨は再び問うた。
「貴方の力を必要としております故」
彼は答えた。
「バダンはその崇高な理想の為に貴方の力を必要としているのです。戻って来て下さい。そして共に理想社会を築こうではありませんか」
美辞麗句をもって言う。だが村雨はそれに対し簡潔に答えた。
「道具としてか」
だがヤマアラシロイドはそれに対しても顔色を変えない。
「それは違いますね。誰に吹き込まれたのかは知りませんが」
「では俺はバダンにとって何なのだ?」
「同志です」
彼は一言で言った。
「我がバダンにおいて偉大なる首領の下理想を実現する為に働く同志です。それ以上でもそれ以外でもありません」
「つまりバダンの歯車か」
村雨はそれを聞いて言った。
「それは貴方の勘違いです。我々は自分の意思でバダンの為に活動しているのです」
「ならば何故俺の記憶を消した?」
村雨はヤマアラシロイドを見る目の光を強めて言った。
「不用だからです」
「不用!?」
「そうです。そんなものが必要なのですか?」
ヤマアラシロイドはそう言うと口の片端を吊り上らせた。
「人でなくなるのですから。人などという愚かなものを超越している我々には人の持つものなど一切不用なのです」
彼は言葉を続けた。
「人は弱く愚かなものです。そしてその為に憎しみ合い奪い合い殺し合う・・・・・・。そんなものが持っていたものなど必要があると思うのですか?」
「・・・・・・・・・」
村雨はその言葉に沈黙した。その時先程見たあの街の姿が脳裏に浮かんだ。
それを見た彼は彼等を別に弱いおのだとも愚かだとも思わなかった。それは今までの旅でもわかっていた。人間には多くの感情がある。それは確かに良くない部分もある。しかしそれ以上に素晴らしいものがあった。
彼は自分の見たものを信じていた。そして博士の言葉も。だからこそヤマアラシロイドに対して言った。
「それは違う。御前は間違っている」
「・・・・・何ですと」
彼はそれを聞いて片目をピクリ、と動かした。
「俺はここに来るまでに多くの人に会い多くのものを見てきた。人間は確かに愚かな部分もあるだろう。し
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