失われた記憶
[11/11]
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
かしそれは一部分に過ぎない。御前は一部分だけを見てそう言っているだけだ」
「・・・・・・ほお」
ヤマアラシロイドの目の光が冷たくなった。
「俺は人間を信じる。そして俺もまた人間になりたい。御前の誘いを受けるわけにはいかない」
「ではバダンには戻られないのですね?」
「そうだ。そして俺は記憶を取り戻し人間になる」
「・・・・・・そうですか」
ヤマアラシロイドはそれを聞いて目をゆっくりと閉じた。そして再び開いた。
「ムッ」
その目は真っ赤になっていた。その目で村雨を見る。
「なら仕方ありませんね。バダンに仇をなす者は消えてもらわねばなりません」
全身を邪悪な気が包む。それは刺す様な刺々しい気であった。
村雨も身構える。闘いがはじまろうとしていた。
だがヤマアラシロイドはその気を急に鎮めた。そして目も元の色に戻った。
「・・・・・・ここでは止めておきましょう」
彼は微笑みを顔に浮かべて言った。
「どういう事だ?」
村雨は彼に対して問うた。
「貴方と戦うにはより相応しい場所があるからです」
彼は静かに言った。
「相応しい場所!?」
「ええ。貴方のその薄っぺらい人への思いがすぐに剥がれる場所がね」
彼はそう言うとニヤリ、と笑った。
「剥がれる場所・・・・・・」
「そうです。まあそれはすぐにわかりますよ」
彼はそう言うと踵を返した。そして屋敷の出口へ向かった。
「すぐにまたお会いすることになるでしょう。その時を楽しみにしておいて下さい」
屋敷を出た。そして姿を消した。
「行ったか」
村雨は気配が遠くへ去って行くのを感じた。今からでは負い付く事は無理だろう。
「それにしても俺の思いが剥がれる場所か」
ヤマアラシロイドが言った言葉を思い出した。
「一体どういう意味だ。そして何を考えているのだ」
彼は怪人が去った屋敷の出口の方へ顔を向けた。そこからは太陽の淡い黄金色の光が差し込めていた。
失われた記憶 完
2004・2・16
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ