拳砕ける時
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「それにしてもどうやら大変な事になりそうだな」
沖一也はXマシンを駆りながらふと呟いた。
「何があったかは知らないが谷のおやっさんのあの様子・・・・・・。只事じゃないぞ」
携帯から聞こえて来る谷の声は明らかに狼狽していた。多くの戦いを経てきた彼があんな声を出すのは珍しかった。
「それにしても仙台から帰ってきたらすぐにこれか。チョロの奴もアミーゴに戻ってすぐ何かやってるみたいだし大変だな」
彼はそう言って微笑んだ。
「それにしても仙台での戦いも凄かったな」
彼は仙台での戦いを思い出した。
仙台は東北最大の大都市である。独眼流と言われた戦国大名伊達政宗が開いた街である。
政宗は奥州の名家伊達家の嫡男として生まれた。それだけで将来を約束されたように見えるが実際は違っていた。病により幼い頃に片目を失った母に嫌われ弟と家督を争っている。そしてその結果彼を切腹に追いやっている。
その母もまた伊達家の宿敵最上家の人間でありその実家との争いもあった。その上佐竹家という強大な敵もあった。多くの戦いの最中父も殺されている。この時まだ若い彼は父を連れ逃げようとする男が脅迫するにも関わらず発砲を命じている。その結果父は殺されたがその男もまた殺された。
かくして伊達家の主となった彼は幾多の戦いを経て奥州の覇権を握った。彼が率いる鉄砲騎馬隊は恐ろしいまでの強さであった。しかし時代が悪かった。
戦国の世は終わろうとしていた。織田信長の後を受けた豊臣秀吉が天下統一の最終段階に入っていたのである。
佐竹氏が豊臣に従った今彼は逆賊となる。戦っても豊臣の圧倒的な力の前には勝てる筈もない。彼は面子を捨てて小田原を攻める秀吉の前で膝を屈した。
この時死に装束で着た彼を見て秀吉は内心驚いた。そして彼を認めたのである。
だが彼の能力と野心もよく知っていた。彼を仙台に移し目付けとして合津に蒲生氏郷、その後は上杉景勝や直江兼続を置いた。これは如何に秀吉が彼を恐れていたかに他ならなかった。
徳川家康もそれは同じであった。常に彼を警戒していた。だがそれを察していた彼は表向きは妙な行動を避けた。そして領地経営に専念し仙台藩の基礎を築いた。以後仙台藩はお家騒動もあったが江戸時代を通じて大藩であり続けた。
その伊達家の本拠地がこの仙台である。『森の都』として知られ美しい街並を誇っている。
「寒いと思ってましたけどそれ程でもないですね」
街中を歩きながらチョロが言った。
「ああ。意外と暖かいな」
沖もそれに同意した。
「ただ単にさっき食べたばかりだからそう言えるのかも知れないけれどな」
彼はそう言って微笑んだ。
「牛タン美味しかったですね」
「ああ。噂には聞いていたがあんなに美味しいとは思わなかったな」
「今度はホヤ食べましょうよ
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