海魔泳ぐ海
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瀬戸内海は古来より我が国の海運の中心となっている。船の往来は多く港も多い。かって海軍が呉に港を置いた理由は防衛に適しているのとこの地が天然の良港の宝庫だからであった。平家もこの地の海運を利用して栄えた。平清盛が厳島神社を自らの家の守護神としていたのは有名であろう。彼はこの神社に参拝する時に出世魚を食べ出世したという言い伝えも残っている。
また漁業も盛んである。朝早く海に出ると漁に精を出す船があちらこちらで見られる。
同時にこの海は世界有数の海運上の難所でもある。小島が極めて多く海流は複雑である。また小舟も多く船乗り達はここを通過する際は細心の注意を払う。船乗り泣かせの場所でもあるのだ。
しかも昔は海賊達も多かった。藤原純友がここで暴れ回り戦国まで海賊の根城が多々あった。また土着の豪族達も独自の水軍を持ち割拠していた。平家が栄えたのはこの地の豪族達と良好な関係を保っていた事も大きかったのだ。室町期の有力な守護大名大内氏も戦国の中国の雄毛利氏も彼等を自らの勢力に取り込むことによってその勢力を磐石なものにしていた。とりわけ毛利氏は厳島の戦いにおいて村上水軍の力を利用して勝っている程である。
その瀬戸内は今でも船の往来が多い。今では我が国の船だけではなく世界各地の船が往来している。
その日の夜一隻の貨物船が航行していた。見ればアジアのとある半島籍の船である。
「しかし島や小舟の多いところだなあ」
船長は艦橋でぼやいた。痩せてエラの張った顔をしている。
「そうですね。しかしここを通らないわけにはいきませんからね」
傍らにいる若い航海士が言った。
「うむ。まあ今日は雨も降っていないし船も比較的少ないしな。いつもと比べるとかなりやり易い」
「そうですね。しかし油断は禁物ですよ。最近ここで事故が絶えませんようですし」
航海士が顔を顰めた。
「らしいな。船が急に顛覆したとか沈没したとか。今月に入ってもう三件か」
船長もその表情を暗くした。
「救助された者の話では船に欠陥は無く船底が何時の間にか空いたりエンジンが急に爆発したりしたらしいですね。事故を調査した海上自衛隊や保安庁も原因解明に苦労しているようです」
「それでか。いつもは何かというと陰に隠れたがる自衛隊や保安庁の船が最近この辺りでしきりに動き回っているのは何故かといぶかしんでいたのだが」
船長はふとすぐ前にあるであろう呉の港のほうを見た。
「ここで沈んだりしたら大変ですよ。鮫も多いようですし」
「おい、鮫が怖くて船には乗っていられんぞ」
「ははは、これは失敬」
航海士は笑って謝罪した。
「まあいい。それにしても妙な話だ。我々も注意しないとな」
「はい、その通りです」
航海士がそう言った時だった。彼等の乗る船が急に傾きだした
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