雪原の花
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。
「・・・・・・・・・」
どれだけ上を見上げ続けたであろうか。彼の心に何か特別な感情が宿った。
「・・・・・・・・・なんだ、この感情は」
彼は上を見上げながら呟いた。
「喜びや優しさとも違う。それとは別な、今俺の目に入って来るこの雲と空と太陽を目に焼きつけたい、心に留めておきたい、そして大切にしたいという思いだ」
博士はその言葉を聞いて優しく微笑んだ。
「博士、この感情は一体何というのだ」
彼は顔を下ろし博士のほうを向いて問い掛けた。
「君は今美しさを知ったんだ」
博士は言った。
「美しさ!?」
村雨は少し困惑したような声で言葉を出した。
「そうだ。目に入ったものを心で感じ、それを心に留め大切にしたい気持ち。それが美しさを知るということなのだ」
「この雲が、空が、太陽が・・・・・・。そうか、これが美しいものか」
その時彼はふと前に見た夜の空を思い出した。濃い紫の帳に散りばめられた星達と月。それ等に対しても彼は今見た雲や空、太陽と同じ感情を思い浮かべた。
「・・・・・・美しい、こういったものを見てそう思うのだな」
「それはその人それぞれで微妙に違うがね。まあそう思ってくれて構わないよ」
博士は彼に問い聞かせるように言った。
「村雨君、この美しいものを守りたくはないかね」
博士の顔が急に引き締まる。それまでの微笑みは消え目の光が強くなった。
「ム・・・・・・・・・」
村雨は即答しなかった。否、出来なかった。博士の方を見てただ口を閉ざし目だけを向けていた。
だがやがてその口を開いた。少しずつ、だが確実に。
「・・・・・・・・・ああ」
彼は言った。そしてそこには強い意志が見られた。
「よく言った。それでこそ本当の意味での人間だ」
博士は彼に微笑んで言った。
「・・・・・・そうなのか?」
村雨はその顔に僅かな困惑の色をう浮かべて聞いた。
「そうだ。勿論まだまだ君に必要な感情はあるがね。しかし美しさを知るというのは人間にとって重要なことなんだ」
「・・・・・・そうなのか」
村雨は顔を少し俯けて言った。
「それもすぐにわかる。そしてそれがどれだけ素晴らしい事
なのかも」
「これが・・・・・・素晴らしい事・・・・・・・・・」
村雨は博士の言葉の意味がまだ完全に理解出来なかった。
「それは君がバダンと戦う時にわかるだろう。そしてそれが君と彼等を分かつものになる」
「俺と奴等を分かつもの・・・・・・・・・」
村雨はその言葉を噛む様に繰り返した。
「その事はよく考えてくれ。決して無駄ではない」
「そうか、そうしよう」
村雨はその言葉に頷いた。
「それではそろそろ出発するか。それとももう少し見ていか?」
「・
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