地底からの魔手
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心を持つからこそ彼等は戦えるのだと。
「それでは俺は戦えないのか。その正義の下には」
彼は言った。その言葉を博士は首を横に振って否定した。
「違う。君も心を、感情を取り戻したならば正義の下に彼等と共に戦えるのだ」
博士は力強い声で彼に言った。その口調は有無を言わせぬ強いものだった。
「俺も・・・・・・正義の下に・・・・・・」
彼はその時の言葉を思い出していた。何故かその言葉が妙に心に残った。そして何か不思議な感触を味わった。
「・・・・・・これも感情の一つか」
彼は思った。そして博士に教えてもらった感情の一つを呟いた。
「喜びというのか。何かと見たり感じたりして心が浮き上がる」
彼は自分の胸を見た。
「楽しみにも似た感情だ。正義の下に戦えると思っただけでこうした感情を抱けるとは」
上を見上げた。限り無く黒に近い紫の空が広がっている。
そこには無数の星々が瞬いている。赤い星、青い星、白い星。様々な星がある。
「どこの空も同じだな。昼には青い空に白い雲と金色の太陽があり夜には紫の空と様々な色の星達と黄色い月がある」
村雨は呟いた。そして数歩歩いた。
そこへ何かが駆けて来た。彼は咄嗟に身構えた。
「バダンか・・・?」
だがそれはバダンの者ではなかった。小さい影だった。
それは子犬だった。白い巻き毛の可愛らしい犬だった。
「あ、捕まえてくださ〜〜〜い」
その後ろから女の子の声がする。彼はその言葉に従い子犬を捕まえた。
「ワン」
子犬は一鳴きして彼の腕の中に入った。どうやらかなり人に慣れた犬らしい。
「あ、有り難うございます」
さっき声をかけてきた女の子が出て来た。黒い髪の可愛い女の子だ。高校生位か。
「おい美由紀、駄目だろペスから目を離したら」
その後ろからもう一人駆けて来た。二十位の若い男だ。
「御免なさい、お兄ちゃん。ちょっと目を離したらすぎに走っていっちゃうんだもの」
「だから手綱を強く握ってろって。ただでさえ御前は力が弱いんだからな」
「御免なさい・・・・・・」
美由紀と呼ばれたその娘は申し訳無さそうに頭を垂れた。
「わかればいいよ。あ、ペスを捕まえて頂き有り難うございます」
若い男は村雨に頭を垂れて礼を言った。
「ペスというのか、この子犬は」
村雨は腕の中の子犬を見下ろしながら言った。表情は変わらない。
「はい。可愛いでしょ」
「可愛い・・・・・・・・・」
彼はその顔を見た。村雨を見て人なつっこそうに笑っている。
「俺を見て笑ってくれるのか」
それを見て彼の口元が綻んだ。
「俺は笑っているな。そうか。俺は今楽しんでいるのか。いな、この感じは少し違うな。喜んでいるのか」
村雨は言った。それは今
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