脱出
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乗り追いかけていく。
伊藤博士は自室で椅子に座りコーヒーを飲んでいた。わりかし広い部屋である。ゼクロスのそれとは異なり装飾もある。
ふと壁に架けられている一枚の写真を見たそこにはゼクロスと一人の女性が一緒に写っている。
そこに写るゼクロスは笑っていた。信じられない位朗らかに笑っている。
その横にいる女性も笑っている。その顔から二人が極めて親しい関係にある事がわかる。
その女性は黒く長い髪をした美しい女性である。白いセーターに青いジーンズを着ている。
「まさか君があの場所にいたなんて」
博士の顔に悲しみが浮かぶ。
「そしてあんな事になるとは・・・・・・。済まない、君を救えなかった」
コーヒーカップをテーブルのコーヒー皿の上に置いた。カチャリ、と陶器がぶつかり合う音がする。
「そして彼も・・・・・・・・・」
博士は下を俯いた。その顔に悲しさだけでなく苦しみも浮かぶ。
その時部屋に来客を伝えるチャイムが鳴った。
「どうぞ」
博士は入って来るように言った。それに応えシャッターが左右に開いた。
来たのはゼクロスだった。無言のまま部屋に入って来た。
「来たか」
博士はその姿を認め呟いた。
「真実を教えてくれ」
ゼクロスはシャッターを閉めると一言だけ言った。
「いいだろう。ではそこに座ってくれ」
「解かった」
ゼクロスは博士に勧められ席に着いた。
「まず言おう。ゼクロス、君の本当の名はゼクロスではない」
「そうか」
驚きは無い。何故なら彼には感情が無いからだ。
「君の本当の名は村雨良。日本人だ」
「むらさめ・・・・・・りょう・・・・・・・・・」
「そう、それが君の本当の名前、君はこの日本で生まれたんだ」
「日本人・・・・・・」
日本、その国名と位置等は知っている。作戦遂行の為必要だから教えられた。
「そして君には肉親がいた」
博士は壁に架けられているあの写真を見せた。
「この女性が君の姉。村雨しずかだ」
「俺の・・・姉・・・・・・」
どういうものかは解からない。感情というものが戻ったならば解かるのだろうか。ゼクロスはそう考えた。
「この人はかって私の知り合いだった。私の生徒の一人だった」
「博士の・・・・・・」
「そして君の事も私は知っていた。君はかっては陽気ないい青年だった」
「そうだったのか」
だからといってどういう事も無かった。ただ話を聞いて憶えるだけである。
「彼女はもういない。死んだ、いや、殺されたのだ」
「殺された、誰に・・・・・・」
それを聞いて博士は非常につらそうな顔になった。えも言えぬ悲しみが彼を襲った。
(自分の肉親の、最愛の姉の死さえもその記憶から奪い去られてしまっている
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