第一話 通りすがりのお義兄(にい)さんだよ
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時刻は19時をたった今まわった。
空は緋色に染まり、やがて夜がやって来る。すでに完全下校時間を過ぎているので人の姿もまばらである。
ここはとある寮の一室。電気がついてない薄暗い部屋の中でベッドに体を沈める人影がある。何をするでもなく、ただ横になっているだけ。
しかし、その体は縦にギリギリベッドに収まっていると言っていい程だ。
ベッドが小さい訳ではない。そこに寝ている青年、灯影月日(ひかげ つきひ)のせいでそう見えるだけの話である。
〜♪〜♪〜〜♪
すると暗い部屋がわずかに明るくなる。枕元に置いたケータイが無機質な着信音と共に震える。
月日は相手を確認せず、する必要も感じず、電話に出た。
「…もしもし?」
『こんばんわぁ〜。愛しのダ〜リンにラブコ〜ルよぉ〜』
電話の向こうから明らかに女口調で悪ノリしている少年の声が耳に届く。彼はボーとしたまま、
「OK.とりあえず間違い電話だ。その電話の向こうにはその愛しのダ〜リンとやらは存在しない。番号とこのどうしようもない空気をどうにかしてから改めてかけ直せ、コノヤロー」
言いたいことを言い尽くし、電話を切ろうとボタンに指を置いた。
『ちょっ!! 待ってくださいよ、冗談ですってぇ!』
向こうもこの流れの行き先が解った慌てて止める。やれやれ、と月日はケータイを耳に戻した。
「…何だよ? 俺の眠りを妨げる者は何p――」
『そのネタはもういーですからぁ!』
この先は言わずとも知っているらしい。やれやれ、と月日は上体を起こして腰かけるように座る。
『それよりも“出現(でた)”のでお願いしますぅ』
「……、」
月日の顔付きが変わる。そして大きな溜息が口から漏れる。
「俺、今日シフトから外れてるし、そのために人員割いて広く巡ってもらったんだが?」
『そう言わずにぃ』
「“スノー”は?」
『別地区を回ってますぅ』
今から連絡入れても、到着まで20分かかります、と少年は付け加える。
「で、俺か?」
『その近辺なんですよぉ』
「……、」
少し考え込む。だがその決断は早かった。
「解った、すぐに向かう。準備は?」
『抜かりなくぅ』
「OK.現場の座標を送ってくれ」
『ラジャーァ!!』
月日はケータイを畳むと立ち上がり、ポケットにねじ込む。そして机の上に無造作に置かれた黒革のベルトを腰に巻き付ける。ベルトには大小様々なホルダーが取り付けられている。
更に革ジャンを拾い上げ、流れるように袖を通していく。最後に玄関である物を掴み取るとそのまま扉を開け、飛び出していった。
月日は現場へと急いだ。その背中はすぐに夜の闇
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