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琴浦幻憑記
琴浦幻憑記
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を出て改めてこの光景に不思議がっているとどこからか声が聞こえてくる。
 人には会いたくないが、私の耳にはしっかりと聞こえた。

「春香……?」

 それは私の名前だよ。
 でもなんで?
 お爺ちゃん?
 って思ったけど、こんな場所なんて知らないしお爺ちゃんもこんな場所に私は連れてきたことないし……

「じゃあ誰?」

 『春香』の名を呼ぶとしてあるのは身内であった爺さんだけであったが、私はそれを否定した。
 可能性として0ではないが、あまりにも低すぎる。
 他にも元親や元友達などいるが自分に近づいてくるわけがない。

 目的を忘れるわけではないが、少し寄り道をするくらいいいだろう。
 相手が誰か見るだけで自分の姿を自分の名前を出した個人に晒す気はない。
 そう自分自身に言い聞かせ、聞こえた方向に歩き出す。





 ドンッ

「あぴゃっ!」

 だが歩き出した向きとは真逆側から何かがぶつかって、廊下に倒れてしまう。
 それに連動して変な声も女の子ながら出してしまった。

「いたたた……いったい何?」

 漫画みたいなことが起きるとは思わなかったと思考しつつ、ぶつかってきた者または物を見る。
 もっとも後者の確率はまずないだろうが。
 それは案の定人型で、それと同じくして自分が『ああ、生きているだな』と実感する。
 だけど誰だろうと、自分と同じくらいの背だと思われる子を見つめていると顔をあげてその姿が露になる。

「お姉ちゃん、おはよう!」

「……」

 今なんて彼女は言っただろうか?
 おねえちゃん?誰が?
 周りを急いで見渡すが自分しかいないので私しかいない。
 ということはやはり自分に対して言った言葉なのだろう。
 いつも通り(・・・・・)心の声を読んでみると――

(お姉ちゃんの胸温かーい)

 ……可愛い。
 はっとして改めて彼女を見ると倒れている私の胸あたりで『えへへへ』と良い笑顔でいる。
 私と違い暢気なものだ。

「えっと、誰?」

 相手の挨拶も返さずに聞いてしまったが許して欲しい。
 こちらとて何がなんだかわからない内に目を覚まし、部屋を飛び出してきたのだ。
 相手だけはなく自分のことも知りたいくらいだ。

「? 何言ってるの? こいしだよ。誰って可笑しいこと考えるんだね」

 こいしって誰だろう……
 私の素直な感想である。
 心の中でも『お姉ちゃんなんでそんなこと聞くんだろ?』と不思議がってるので間違いない。
 身近にこいしって人はいただろうか?
 人の名前を覚えるのはそこまで悪くないと思うのだが……
 もし知っている人なら無償の笑顔が痛い。

(なんで私のこと知らないの……?)

「え?」
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