蛇足三部作
『最後は隣に並んで歩こう』
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の者達の可能性に対して全幅の信頼を寄せているその姿は、幼子の様にあどけない。
笑い飛ばしてやろうと思ったが、嘲笑の代わりに零れ落ちたのは皮肉を帯びた平坦な声音であった。
「オレや貴様を超えられなかった忍び共が、それを叶えられるとでも?」
「武力でオレ達を超える必要なんて無いさ。大事なのは、彼らが我々の“願い”を正しい形で受け継いでくれる事なのだから」
大丈夫。彼らならきっと、間違えないでいてくれる。
本心からそう思っているのだろう、愛おしそうに微笑む相手の姿に息が詰まる。
黙りこくる己に何を思ったのか――何より、と仇敵はからかいを込めて嘯いてみせた。
「世界を換えようともがく権利は、生者にだけに許された特権だぜ? 死人のオレ達が口出しできるようなものじゃない」
「……厭味か、貴様」
「おう、その通りだとも」
「ふん。貴様の言い分だと、心残りなんぞないとでも言わんばかりだな」
存外なその言い草に吐き捨てる様に言い返してみれば、眠そうに細められていた黒瞳が見開く。
数秒、間抜け面を晒したかと思えば、仇敵は相好を崩してしまりのない表情で微笑んだ。
「だって……お前とまた戦えたし」
謳う様に軽やかな口調で呟かれた内容が信じられず、体が硬直した。
「前々から一族とか里とか何も気にせずに、思う存分お前と戦えたら……どんな感じなのか……確かめてみたかったからなぁ。それも叶った以上、オレがこの世に留まる理由も、正直……無いだろ?」
奴の身を支えている腕に力を込める。
己と同じ様にそう思っていてくれたのだという事が分かって、例え様の無い歓喜が全身を浸した。
「だからさ……今を生きる人々に、私の思いを預けて――私はあの世に戻って、それが叶うのを楽しみに待つとするさ」
「――――そうしてまた、オレの手の届かぬ所へと、去るのか」
引き攣った様な声が、どうしてか己の口より零れ落ちる。
これだけの距離でなければ届かないだろう囁きを耳にして、奴は驚いた様に目を見張った。
「散々振り回して、ようやく手が届いたと思ったら……これだ。だからオレは……貴様が大嫌いだったんだ」
「…………私は結構、お前の事好きだよ?」
己の肩に奴の額が軽く触れる。その感触に、何とも言い難い感情が胸の奥で荒れ狂った。
腕の中にいるのに、それすらも確かではない。
掴んでは溢れ落ちる水を相手にしている様に不確かな存在を握りしめている様な……何とも形容しがたい感覚に襲われる。
憧れて、焦がれて、憎んで、羨んで、それでも尚追い求め続けて。
いつだって己の前に強固な越えるべき壁として在った存在だったというのに、いざ手を掛けてみればするりと滑り抜けていく。
――相手の痩身を囲う
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