蛇足三部作
『最後は隣に並んで歩こう』
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それを聞いて女は破顔する。
屈託の無い微笑みを向けられて、男は気付かれない程度に――ほんの僅かに眉間の皺を緩めた。
「それでもいーよ。本当に嬉しかったんだからさ」
それに気付いているのか、いないのか。
掴んだままの掌に込める力を、ほんの一瞬だけ強めた女が心の底から嬉しそうに――その顔を綻ばせる。
素直すぎる言葉に毒気を抜かれたのか、男は特に反駁を加える事なく黙って口を噤んだ。
足取りを揃えながら彼らが進む先では、二人がよく知っている人々の姿が見えてくる。
不満そうに顔を顰めている赤髪の佳人とその隣で腕を組んでいる銀髪の青年。
生真面目そうな顔付きの黒目黒髪の青年に、知的な感じを漂わせている前髪で左目を隠した女。
顎先に十文字の傷を負った少年と、少年とよく似た風貌の老人。
がっしりとした体躯のいい壮年の男性、薄紫がかった白い目を持つ人々。
赤い目を瞬かせる子供達や、相棒の犬を連れた者達に、顔をサングラスで隠した男達。
懐かしい面差しを持つ背丈も身形も様々な人々が、二人の前でそれぞれの表情を浮かべながら佇んでいる。
並び立つ人々の合間から一歩分だけ前に出て来た、整った柔和な面差しに赤い瞳を持つ青年の姿に男が気付いた。
「――……イズナ」
「待っていたんだよ、兄さん。全く……遅いんだから」
半ば泣き笑いの表情を浮かべて青年が答えれば、男は僅かに眉根を下げて罰の悪そうな顔になる。
そんな彼らの姿を嬉しそうに眺めてから、女が掴んでいた男の手首を放して人々の方へと駆け寄っていく。
途中で、くるりと踊る様に半回転すれば、彼女の纏っていた衣の裾と長い黒髪が動きに合わせ、ひらりと揺れる。
袖口から覗くしなやかな手が、まるで踊っているかのように優美に動いて、男の方へと伸ばされた。
これ以上無く幸せそうに、これ以上無く嬉しそうに。
そして――――とてもとても、楽しそうに。
そうやって、女はかねてから言いたかった、言ってやりたかった、その台詞を告げるのだ。
「――お帰り、マダラ!」
大輪の華が咲き誇る様な微笑みを浮かべて、彼女は男へと自分の手を差し伸べる。
差し出された掌を男は驚いた様に凝視したが、ふと口元を緩めて、そっと己の手を差し伸べる事で返す。
――――重なった手は確りと握られて、そうして今度こそ離される事は無かった。
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