蛇足三部作
『最後は隣に並んで歩こう』
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え出した『月の眼計画』は諸手を挙げて賛成できるようなものではないと……思っているよ? ――でも、それ以上になぁ……」
けほ、と咳込みながら、奴は小さな笑声を零す。
淡々とした声音からは、相手がどのような表情を浮かべているのかについて読み取る事が出来ない。
地面へと滴り落ちていく途中の赤い雫が、己の見つめる中で灰と化して風に攫われていった。
「なんというか、わかっちゃったんだよなぁ」
「…………なにがだ」
「お前が今やろうとしている事と、私が昔やった事は……手段こそ違うけど、根っこの部分は、果たそうとしている目的は、同じだって」
違うと言い返そうと口を開いて、結局何も言えずに押し黙る。
――そう、やろうとした事はきっと同じだった。
勝者だけの世界、愛だけの世界、誰も苦しむことのない理想の世界。
嘗て失ってしまった尊い物を、再びこの手に取り戻すことのできる――唯一の可能性。
そんな途方も無い夢を望んで――そうして行き着いた先が【無限月読】という大幻術を行使してでしか得られない“平和な世界”だった。
所詮はまやかしに由る偽りの平和だと糾弾されるだろう、それに対して否定などしない、出来る筈が無い。
ただ今更真の平和が為されると信じられる程、己もアイツも無垢ではなく、そうまでしてでも手に入れたい、取り戻したいモノがあった――それ故の、大幻術。
なんだかんだでお前は真面目だからなぁ……と吐息交じりの囁きが、そっと己の耳朶を擽る。
「きっと、ナル君達は否定するだろう。お前のやろうとしている事は間違っているって」
「――……それはある意味では『正解』ではあるな」
そして同時に、ある意味において彼らのその『否定』は誤りでもある。
“永遠の平和”なんて代物が訪れないという事など、他ならぬこの仇敵自身とて身に沁みて理解している。
今以上に理不尽な戦国の世において――“平和”を掴みかけ、そして“失敗”した忍びであったのだから。
……その失敗の一助を担った身としては、この現状は皮肉極まり無いと思えなくも無いのだが。
けれど、告げられる言の葉には敵意も憎悪も含まれておらず、ただひたすら静かで透明なものだった。
「……ん。そう言う訳で、オレはお前の考え自体を、否定するつもりは……無いよ」
「――……そうか」
「そうだよ」
己の思考の果てに辿り着いた選択は間違っていないと自負しているが、それでもこの仇敵の口から諦めにも似た結論を聞くのはどうしてだか気に食わない。
逆恨みにも似た感情で騒ぐ内心を押し隠して応じてみせれば、それまで伏せられていた頭が持ち上げられる。
刃物の鋭さにも似た輝きを宿した双眸には諦観など欠片も見当たらない、それに安堵した。
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